単衣

単衣（ひとえ）とは

単衣（ひとえ、単）とは、平安装束において着用された裏地のない着物のことを指します。

概要

単衣は、小袖や袴を着用した上に羽織るようにして用いられました。本来は肌着としての役割を持っていましたが、院政末期に肌小袖が発明されたことで、中着としての位置づけに変わっていきました。

男女で形状にわずかな差異があり、女性用の単衣は男性用よりも丈が長く作られています。女性の衣装の中では最も大きく作られているのが特徴です。ただし、神職装束では単衣が省略されることもあります。

形状

単衣の基本的な形状は、身二幅、広袖一幅、垂領となっています。衣服の端は解れないように、「糸捻（いとひねり）」と呼ばれる糸でかがる方法や、「糊捻（のりひねり）」と呼ばれる糊をつけて丸める方法で処理されています。

男性の単衣

男性用の単衣は、身二幅、広袖一幅、垂領、闕腋、腰丈という形状をしています。具体的には、背縫いがあり幅70センチ程度、袖丈40センチ程度の袖口が縫われておらず大きく開いたままの袖、着物風の襟、脇が縫われていない腰丈の衣服です。素材としては、平絹や菱模様の綾が用いられ、基本的には赤色が使用されます。ただし、年齢によって色が異なり、年少者は濃色（紫）、壮年者は朽葉、老人は白を用いるのが通例でした。普段着である直衣の場合には、色や模様は自由とされていました。

ほぼ同じ形状で裏地を付けたものを衵（あこめ）と呼びます。衵は寒い時期に単衣の上に重ねて着用され、夏季には裏地を取り去った「ひへぎ」として使用されることもありました。祭礼においては、特別な場合に赤以外の衵を用いることがあり、これを「染衵」と呼びました。衵の丈が長いものを袿といい、直衣の裾から覗かせるファッションは「出し衣（いだしぎぬ）」と呼ばれていました。

女性の単衣

女性用の単衣は、身二幅、広袖一幅、垂領、縫腋、裾長という形状をしています。男性用と異なり、脇は縫われており、丈は床に引きずるほど長くなっています。汗や化粧から他の衣服を守るために、他の衣装よりも袖丈がかなり長く、全体的に大ぶりに作られているのが特徴です。素材としては、平絹や綾が用いられ、色や模様は自由でした。襲の色目（かさねのいろめ）に関する記録を見ると、紅、白、青（現代で言う濃い緑）が多く用いられていたようです。

盛夏の装束としては、単重（ひとえがさね）というものがあり、単衣を2枚ほど重ねた上に表着を重ね、さらに唐衣や小袿を重ねる装束がありました（十二単も参照）。

現代の皇族女子の装い

現代の皇族女子においては、未婚者は濃色で模様は幸菱、既婚者は紅幸菱を用いるのが通例となっています。女官の場合、奏任官は紅幸菱、勅任官は黄幸菱を用いることとなっています。

参考文献

竜村譲『日本のきもの』中公新書
切畑健『日本の女性風俗史』紫紅社文庫
近藤好和『装束の日本史　平安貴族は何を着ていたのか』平凡社新書
長崎盛輝『かさねの色目　平安の配彩美』青幻社

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