満洲開拓政策基本要綱

満洲開拓政策基本要綱とは

満洲開拓政策基本要綱は、1939年（昭和14年）12月に日本政府と満州国政府が共同で発表した、満州移民政策に関する基本方針です。この要綱は、満州への日本人移民を促進し、そのための具体的な政策を定めたものでした。

前史：要綱発表の背景

1932年（昭和7年）の満州国建国から1945年（昭和20年）の日本の敗戦まで、満州への日本人農業移民事業は、関東軍が主導していました。この移民事業は、以下の三つの時期に分けられます。

1. 試験移民期：少数の試験的な移民が行われた時期。
2. 本格的移民期：大規模な移民計画が実施された時期。
3. 終戦期：日本の敗戦により移民事業が終焉を迎えた時期。

関東軍は、試験移民期から満州への大量移民計画を立案し、日本政府に実施を求めていましたが、大蔵省などの反対により実現しませんでした。しかし、1936年（昭和11年）の二・二六事件を機に、軍部の政治的発言力が増大し、関東軍と陸軍省が作成した満州大量移民計画が実施されることになりました。同年には、「満州農業移民百万戸移住計画」が策定され、広田弘毅内閣の七大国策の一つとして「二十カ年百万戸送出計画」が決定されました。この基本要綱は、本格的移民期に「二十カ年百万戸送出計画」を実行するための具体的な移民政策を定めたものです。

要綱発表前の土地取得の実態

満州移民事業において、移民用地の確保は最大の課題でした。当初、日本政府は官有地や不在地主地の取得、未利用地の開発を方針としていましたが、実際には、帝国主義的な強圧的な土地買収が横行しました。1941年末までに約2000万ヘクタール（満州国国土の14.3％）の土地が収容されましたが、その多くは中国人からの強奪同然のものでした。

土地買収は、市場価格を大幅に下回る価格で強制的に行われ、1ヘクタールあたり荒地で2円、熟地で最高20円という、時価の8％から40％程度の価格で買収されました。また、買収代金が支払われないこともありました。さらに、政府の方針として掲げられた「未利用地開発主義」は実行されず、実際には既耕地も多く含まれていました。

要綱の概要

本要綱は、「日満両国の一体的重要国策」として、満州移民事業を位置づけています。これは、日本政府の「国営事業」としての側面を薄め、満州国との共同事業であることを強調するものでした。具体的には、以下のような内容が定められました。

日満両国の一体的重要国策：移民事業を日満両国の共同事業とし、日本国内での業務は日本政府が、満州国内での業務は満洲国政府が管轄する。
行政経済機構：入植地の行政機構を街村制とし、経済機構を協同組合とする。
指導員の身分：指導員の身分を日満両政府の嘱託に改め、訓練は日本国内で日本政府、満州国内で満州国政府が管轄する。
満蒙開拓青少年義勇軍：日満両国の開拓関係機関が協力して訓練本部を設置し、運営する。

これらの規定により、満州移民事業は、日本政府主導の「国営事業」から日満両政府の「共同事業」へと性格が変化しました。これは、満州における中国人の反発を和らげ、抗日運動との結合を防ぐためのものでした。

具体的な実施要項

本要綱は、満州移民事業の強力な推進に向けて、以下のような具体的な実施要項を定めました。

入植地域：北満方面を主とし、全満州の交通、産業開発上の重要地点に定着させる。理想としては、各地に広く分布し、民族協和の中核分子となることを目指す。
土地制度：永代世襲制を採用し、土地の細分化を防ぐ。
開拓用地：未利用地主義に基づき、国営で実施する。湿地干拓、アルカリ地帯の利用、森林原野の開拓などを重点的に行う。
満蒙開拓青少年義勇軍：その重要性を強調する。
* 農業移民の営農方針：自給自足主義、自作農主義、農牧混同主義、共同経営主義の四大営農方針を堅持する。

まとめ

満洲開拓政策基本要綱は、満州における日本人移民政策の根幹をなすものでした。この要綱に基づき、大規模な移民事業が推進されましたが、その過程では、中国人からの土地の強奪や強制的な移住など、多くの問題が発生しました。要綱は、表面的には日満両国の共同事業を謳っていましたが、実際には、日本帝国主義による満州支配の一環として機能しました。

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