二十カ年百万戸送出計画

二十カ年百万戸送出計画とは

二十カ年百万戸送出計画は、1936年（昭和11年）に広田弘毅内閣によって国策として決定された、満州国への大規模な日本人農民の移住計画です。この計画は、拓務省が作成したもので、関東軍が以前から提案していた「満州農業移民百万戸移住計画」を基にしています。

計画の背景

満州事変（1931年）以降、関東軍は満州への大量移民を日本政府に求めていましたが、大蔵省の反対により実現していませんでした。しかし、二・二六事件（1936年）によって軍部の発言力が強まり、移民政策に消極的だった高橋是清蔵相が暗殺されたことで、関東軍の計画が実行に移されることになりました。

計画の内容

この計画では、1937年から1956年までの20年間で、100万戸、約500万人の日本人を満州に移住させることを目標としていました。具体的な計画としては、第一期（1937年～1941年）に10万戸、第二期（1942年～1946年）に20万戸、第三期（1947年～1951年）に30万戸、第四期（1952年～1956年）に40万戸を送出する予定でした。

この計画は、当時の日本の農家数の約3分の1にあたる200万戸の小作貧農のうち、半数を満州に移住させるという意図がありました。また、満州国の人口を20年後には5000万人とし、そのうち500万人を日本人で占めることで、「大和民族」が満州国の指導的な役割を担うことを目指しました。

移民用地

移民用地は、一人当たり10町歩（約10ヘクタール）として、合計1000万町歩（約1000万ヘクタール）を確保する計画でした。用地は、未開墾地が多く、中国人の農民との摩擦を避けることができる北満州地方を中心として選定されました。また、北満州は抗日勢力の活動拠点でもあり、治安維持の目的もありました。さらに、対ソ連戦に備えるという戦略的な意図もありました。

国策としての推進

1936年8月25日、広田弘毅内閣は、この計画を七大国策の一つとして確定しました。拓務省は、1937年5月に第一期（1937年～1941年）の10万戸を送出する計画の実施要綱を作成しました。移民の送出戸数は、関東軍の計画と同様に、第一期を10万戸とし、それを5か年に割り振りました。

集団移民については、1戸あたり耕地20町歩と採草放牧地10町歩、計30町歩を確保することとし、自由移民については、1戸あたり耕地と採草放牧地を合わせて10町歩を確保することとしました。

分村移民の実施

「二十カ年百万戸送出計画」は、農林省が進めていた農村経済更生運動と連動し、1938年から「分村移民」として実施されるようになりました。「分村移民」とは、各町村で「適正規模農家」を算出し、それを超える農家を「過剰農家」として満州に移住させるというものです。

計画の破綻と悲劇

日中戦争の拡大により、労働力が軍需産業に動員されるようになると、移民計画は縮小されました。1945年8月9日のソ連軍の満州侵攻により、計画は完全に破綻し、多くの移民が犠牲となりました。当時、満州には約22万人の移民団員がいましたが、現地で死亡した者は4万6000人、行方不明者は3万6000人、ソ連に抑留された者は3万4000人に上り、日本に帰還できたのは半数に過ぎませんでした。

この計画は、日本の農村問題の解決と満州での日本の影響力拡大を目指しましたが、その後の戦争によって多くの犠牲者を出しました。計画の背景には、当時の日本の社会情勢や軍部の思惑があり、移民たちは国策に翻弄された結果となりました。

参考文献:
浅田喬二「満州農業移民と農業・土地問題」『岩波講座　近代日本と植民地（第3巻）植民地化と産業化』岩波書店、2005年
筒井五郎『鉄道自警村 - 私説・満州移民史 -』日本図書刊行会、1997年

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