溶姫

溶姫について

溶姫（やすひめ、ようひめ）は、江戸時代の文化10年（1813年）に江戸城の大奥で誕生した、11代将軍・徳川家斉の二十一女です。母は中野碩翁の養女の於美代であり、彼女は後に12代加賀藩主・前田斉泰の正室となり、子供として13代加賀藩主・前田慶寧や11代鳥取藩主・池田慶栄を育てました。また、彼女は徳川家慶の異母妹であり、将軍家の女性として非常に特異な立場にありました。

生涯の軌跡

溶姫は文化10年3月27日（1813年4月27日）に誕生し、幼少期を江戸で過ごしました。文化14年（1817年）には御台所茂姫御養となりました。文政6年（1823年）4月11日、加賀藩主・前田斉泰との婚約が成立し、文政10年（1827年）11月27日には15歳で輿入れを果たしました。彼女の輿入れの際、加賀藩の上屋敷に建てられた溶姫御殿の正門は、現在の東京大学赤門であることが有名です。

結婚後、溶姫は加賀藩に適応しようと努力しましたが、大奥からついてきた女中たちが加賀藩まりたちを見下す態度をとったため、溶姫の苦心が続きました。一方で、彼女自身が夫を軽んじていたという説も存在しています。

彼女と斉泰の間には、次の子供が生まれました：天保元年（1830年）に長男の犬千代、天保3年（1832年）に次男の駒次郎、そして天保5年（1834年）には三男の亀丸（利順、のちの池田慶栄）が誕生しました。特に犬千代は、父が亡くなった後、将軍を継承しようとする計画が持ち上がりましたが、幕府の側の反対により実現しませんでした。

その後、母於美代を引き取り、加賀藩の財政が圧迫される中、溶姫自身が加賀藩士からの激しい非難を受けることになります。また、嘉永元年（1848年）には利順が鳥取藩に養子縁組され、その後も様々な波乱が彼女の人生に影響を与えました。特に利順が17歳で亡くなった際、溶姫は深い悲しみを歌に託して表現しました。

文久2年（1862年）の改革により大名妻子の国許居住が許可され、溶姫は金沢へ帰国を果たしましたが、幕府の情勢に影響され、将軍家との義理を果たすために足踏みをすることとなりました。結局、1864年には江戸に戻る決断をし、様々な困難を経て1868年に金沢に到着しましたが、わずか1か月後の同年5月1日に56歳で亡くなります。

溶姫の墓所は前田家の墓地である野田山にあります。彼女の存在は、幕末の複雑な政治情勢に大きな影響を与え、また大奥の女性たちの地位や役割を象徴する重要な人物として記憶されています。彼女の生涯は、当時の権力構造や家族関係の中でどのように生き抜いていったのかを物語る貴重な歴史です。

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