漂流 (小説)

吉村昭『漂流』

吉村昭によって著された長編小説『漂流』（ひょうりゅう）は、太平洋に浮かぶ絶海の孤島で長期間にわたり孤立した一人の男の壮絶な体験を描き出した作品です。単行本は1976年に新潮社から刊行され、多くの読者に衝撃と感動を与えました。

発表経緯と内容

本作は、1975年（昭和50年）2月26日から同年11月15日まで、『サンケイ新聞』にて日刊連載されました。その後、作者自身の手による加筆・訂正を経て、翌1976年（昭和51年）に新潮社より単行本として刊行に至りました。

物語の核心を成すのは、江戸時代中期の天明年間（1781年〜1789年）に実際に起きたとされる出来事です。土佐（現在の高知県）の船乗りであった長平が、乗船していた船の遭難により、伊豆諸島に属する無人島、鳥島へ漂着します。そこで彼が強いられたのは、想像を絶する12年間に及ぶ孤独なサバイバル生活でした。本作は、この長平が絶望的な状況下でいかに生き延び、そして奇跡的に故郷への帰還を果たしたかという史実を綿密な調査に基づいて再構築したものです。

作者は、本作の「序」において、長平の漂流体験を単なる歴史上の出来事として捉えるだけでなく、現代社会における極限状況と比較する視点を提供しています。例えば、太平洋戦争後のアナタハン事件（吉村は事件関係者から直接話を聞いた経験があります）や、戦後長らく孤立していた残留日本兵である横井庄一、小野田寛郎といった人物たちの事例を引き合いに出し、人間の生命力や孤独との闘いといった普遍的なテーマを論じています。

書誌情報

『漂流』単行本
出版社：新潮社
刊行年：1976年
ISBN：978-4103242123
『漂流』文庫本
出版社：新潮文庫
刊行年：1980年11月
ISBN：978-4101117089

映画化

本作は、そのドラマチックな内容から1981年に同名のタイトルで映画化されました。

公開日： 1981年6月6日
製作： 東京映画
配給： 東宝
仕様： カラー、ビスタビジョンサイズ、上映時間151分

キャスト

映画版では、多くの俳優が主要な役柄を演じました。

長平：北大路欣也
源右衛門：坂上二郎
音吉：高橋長英
甚兵衛：水島涼太
儀三郎：岸田森
伊平次：渡瀬恒彦
忠八：桐原史雄
久七：小川隆一
重次郎：樋浦勉
由浩：酒井昭
清蔵：宮坂正則
お絹：鷹巣豊子
長平の母：三田佳子
惣助：草野大悟
年配の水主：井上博一
得造：山本廉
お栄：野口ふみえ
長平（幼少期）：青山鉄兵

スタッフ

映画制作には以下のスタッフが携わりました。

監督：森谷司郎
製作：大木舜二、内山甲子郎
原作：吉村昭
脚本：廣澤栄、森谷司郎
音楽：COSMOS
撮影：岡崎宏三
美術：栗原信雄
録音：高場豊
照明：山田昌和
編集：池田美千子
チーフ助監督：鈴木一男
スチール：蒔田研一
主題歌：大友裕子『漂流』
作詞：谷山浩子
作曲：土居慶子
補作曲：谷山浩子
編曲：大島ミチル
（東芝EMI）

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