漆工

漆工（しっこう）とは

漆工とは、ウルシの樹液から採取される漆を、器物の表面に塗り重ねて装飾を施す、東洋独特の伝統的な技法です。漆工芸とも呼ばれ、日本では縄文時代からその歴史が始まりました。中国や朝鮮半島でも古くから盛んに行われ、東南アジアなどにも伝播し、各地域で独自の発展を遂げています。

漆工の基本となるのは、器物に漆を塗る「髹漆（きゅうしつ）」という技法です。漆は、その独特の光沢と耐久性から、古くから貴重な素材として珍重されてきました。また、漆を塗るだけでなく、様々な加飾技法を組み合わせることで、より豊かな表現が可能になります。

素地による分類

漆工は、使用する素地によって以下のように分類できます。

木胎（もくたい）：木材を素地としたもの。最も一般的な漆器の素材です。
乾漆（かんしつ）：木や粘土などで作った原型に麻布などを漆で貼り重ねて成形する技法。軽量で丈夫な器物が作られます。乾漆には、原型を土で作る「脱活乾漆（だっかつかんしつ）」と、木で作る「木心乾漆（もくしんかんしつ）」があります。
籃胎（らんたい）：竹を編んだものを素地としたもの。竹のしなやかさを活かした漆器が作られます。
漆皮（しっぴ）：動物の皮を叩き締めて整形したものを素地としたもの。独特の質感を持つ漆器が作られます。
紙胎（したい）：和紙や新聞紙などを貼り重ねて成形したもの。軽く、自由な形状の漆器が作れます。和紙の肌を見せる「一閑張り」や「一閑塗り」も紙胎の一種です。
金胎（きんたい）：鉄などの金属を素地としたもの。金属の強度と漆の美しさを兼ね備えた漆器が作られます。東京国立近代美術館所蔵の「金胎蒔絵唐花文鉢」が著名です。
陶胎（とうたい）：陶磁器を素地としたもの。陶器の質感と漆の装飾が調和した漆器が作られます。
巻胎（けんたい）：薄い木材を巻いて成形したものを素地としたもの。繊細な形状の漆器が作られます。

加飾による分類

漆工は、加飾の方法によって以下のように分類できます。

蒔絵（まきえ）：漆で文様を描き、その上に金粉や銀粉などを蒔きつけて装飾する技法。漆工を代表する技法の一つです。
彫漆（ちょうしつ）：厚く塗り重ねた漆の層を彫って文様を表す技法。彫る深さによって色の変化を出すことができ、「堆朱（ついしゅ）」や「堆黒（ついこく）」などの種類があります。中国の漆工である「紅花緑葉」もこの技法を応用したものです。
蒟醤（きんま）：塗り重ねた漆に文様を彫り、色漆を塗り込んで研ぎ出す技法。東南アジアで盛んに用いられています。
沈金（ちんきん）：漆を塗った器物の表面に文様を彫り、金箔や金粉を埋め込んで装飾する技法。中国の「戧金（そうきん）」と同じ技法です。
螺鈿（らでん）：貝殻を文様の形に切って貼り付け、漆を塗り重ねて研ぎ出す技法。光の反射によって美しい輝きを放ちます。
平文（ひょうもん）：金属の薄板を文様の形に切って貼り付け、漆を塗り重ねて研ぎ出す技法。金属の光沢と漆の質感が調和します。金属と漆の間に高低差をつける「平脱（へいだつ）」も同義として扱われることが多いです。
堆錦（ついきん）：漆に顔料を混ぜて餅状にしたものを加工し、貼り付けて装飾する技法。琉球漆器を代表する技法です。
スクリーン印刷：シルクスクリーンを用いて漆を印刷する技法。現代的な漆工に用いられます。

漆工は、長い歴史の中で様々な技法が生まれ、発展してきました。これらの技法を組み合わせることで、漆器は多様な表情を見せます。また、現代においては、伝統的な技法に加え、新しい技術も取り入れられ、漆工の可能性はさらに広がっています。

参考資料

横井時冬、1929、『日本工業史』、改造社
室瀬和美、2002、『漆の文化: 受け継がれる日本の美』、角川書店
松田権六、2001、『うるしの話』、岩波書店
奈良国立博物館、2006、『平成十八年 正倉院展』、奈良国立博物館
粟国恭子、2007、『沈金と堆錦技法の琉球漆器 : 朱漆鳳風牡丹文沈金東道盆と黒漆山水文堆錦総張文庫』、沖縄県立芸術大学

関連項目

漆
漆器
中国の[[漆器]]
日本の漆器
琉球漆器
仏像（乾漆像）
金仏壇

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