ウルシ

ウルシ（漆）とは

ウルシ（学名: Toxicodendron vernicifluum）は、ウルシ科ウルシ属の落葉性の低木または高木です。その名の由来は、紅葉の美しさから「うるわしの木」が転じたという説があります。中国では「漆」と書き、古くから人々の生活に深く関わってきました。

ウルシの形態

ウルシは、通常5mから15mほどの高さに成長します。あまり枝分かれせず、葉は奇数羽状複葉で、3枚から7枚の小葉を持ちます。小葉には鋸歯（ギザギザ）がないのが特徴です。

雌雄異株であり、雄株は雄花のみを、雌株は雌花のみをつけます。雄花は緑色で5本の雄しべを持ち、雌花は1つの子房に3つに分かれた柱頭がつきます。種子は核果です。

類似種との見分け方

ウルシとよく似た植物を見分けるポイントは、小葉の形状です。鋸歯がある場合はヌルデ、小葉の大きさに注目し、最も茎に近い小葉が小さい場合はヤマウルシです。ヤマハゼはウルシに似ていますが、小葉が小さく、側脈が多いのが特徴です。

ウルシの生態

ウルシは、肥沃で水はけの良い土壌を好みます。水はけの悪い場所に植えると生育が悪くなることがあります。種子は厚い種皮に覆われており、そのままでは発芽しにくいため、濃硫酸に浸す処理が行われることがあります。また、ウルシを焼畑農業で焼くと、農地の収穫量が増え、雑草が少なくなるという言い伝えがある地域もあります。これは、ウルシが何らかのアレロパシー（他の植物の成長を阻害する作用）を持っている可能性を示唆しますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。

ウルシは、実生繁殖の他に、根分けや分根といった栄養繁殖でも増やすことができます。また、組織培養による栽培も研究されています。遺伝的多様性が高いのも特徴です。

カラスやキツツキ類は、ウルシの果実をよく食べます。一方で、エキビョウキンによる根の病害や、果実にうどん粉病が発生しやすいという弱点もあります。

ウルシの分布

ウルシは、アジア地域、特に中国からヒマラヤ山脈付近が原産とされています。日本には古い時代に渡来したと考えられています。日本への伝来時期は、縄文時代には栽培されていたという説が有力です。遺跡から出土した木片の鑑定により、1万年以上前の縄文時代前期からウルシが存在していた地域もあるとみられています。

人間との関わり

ウルシは、古くから人々に利用されてきた有用な樹木です。

樹液・樹脂の利用

ウルシの樹皮を傷つけて採取される生漆は、塗料として利用されます。漆は美しさだけでなく、耐久性にも優れており、日本の伝統工芸に欠かせない素材です。岩手県二戸市浄法寺町は、漆の産地として有名です。漆を採取する方法は、夏至の頃に樹皮に傷をつけ、滲み出てくる樹液を掻き取る「漆掻き」という作業で行われます。日本では、10年ほど育てたウルシの木から数か月かけて樹液を採り尽くし、木を伐採する「殺し掻き」が主流です。

木材としての利用

ウルシの木材は、耐湿性があり、黄色味を帯びています。箱や挽き物細工などに利用されます。

アレルギーについて

ウルシは、「かぶれる木」としてよく知られています。ウルシオールという物質が、アレルギー性接触性皮膚炎（ウルシかぶれ）の原因となります。ウルシオールは液体状で、激しいかぶれを引き起こすことがあり、人によっては触れなくても近くを通るだけでかぶれることがあります。ウルシが燃えた煙を吸い込むと、呼吸困難になる危険性もあります。ただし、ウルシオールは硬化すると安全になるため、漆器に食品を保存しても問題ありません。

食用・薬用としての利用

ウルシの若い新芽は食用にでき、味噌汁や天ぷらにして食べると美味しいと言われています。また、果実から搾った蝋は、ガムベースや食品添加物として利用されます。漢方薬としても利用され、「東医宝鑑」にはウルシを材料とした漢方薬や薬効に関する記述があります。東北地方では、密教の僧侶が即身仏となるためにウルシを使ったという説もあります。

ウルシ属について

ウルシ属（Toxicodendron）は、ウルシ科の属の一つで、学名は「毒のある木」を意味します。ツタウルシ、ハゼノキ、ヤマウルシなどもウルシ属に含まれます。

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