堆朱

堆朱（ついしゅ）とは

堆朱は、漆芸における彫漆（ちょうしつ）という技法の一種で、素地の表面に漆を何層にも塗り重ね、その漆の層を彫刻して文様を表す技法です。日本においては、表面が朱色のものを特に「堆朱」と呼び、黒色のものを「堆黒（ついこく）」、黄色のものを「堆黄（ついおう）」と区別しています。

中国においては、黒漆の層に文様を彫り出したものを「剔黒（てきこく）」、朱漆の層に文様を彫り出したものを「剔紅（てきこう）」と呼びます。これらの技法は中国漆器を代表するもので、特に剔紅はよく知られています。

通常の漆は硬化すると彫刻が難しくなりますが、堆朱は漆を塗り重ねることで厚みを作り、それを彫ることで、漆の豊かな表現を可能にしています。

堆朱の製作工程

堆朱の製作は、まず素地（きじ）の作成から始まります。素地とは、堆朱の土台となる部分です。この土台に漆を丁寧に塗っては乾かす作業を何度も繰り返します。漆は一層塗るごとに乾燥させる必要があり、この工程を繰り返すことで、厚みのある漆の層を形成します。

通常は、まず漆製の板をベースとして作成し、このベースが完成した後に土台を外します。日本では、彫刻する際のことを考慮しながら、様々な色の漆をベースの上に塗り重ねていきます。このため、堆朱は非常に時間と手間がかかる技法として知られています。漆を塗り重ねる回数や漆の種類によって、最終的な作品の表情が大きく変わるため、職人の熟練した技術と経験が不可欠です。

堆朱の歴史

堆朱の技法は、中国において「剔紅」として発展し、宋の時代以降に盛んになりました。この技法が日本に伝来したのは、平安時代末期から鎌倉時代初期の頃とされています。そして、室町時代頃から日本国内で本格的に製造されるようになりました。

日本に伝わった堆朱は、独自の発展を遂げ、日本の文化や美意識に合った作品が生み出されるようになりました。特に、茶道具や香道具など、日本の伝統的な道具に堆朱の技法が用いられることが多く、その優美な意匠は多くの人々を魅了してきました。

関連情報

堆朱についてより深く知るために、以下の情報も参考にしてください。

漆工（しっこう）: 漆を用いた工芸全般を指します。堆朱も漆工の一分野です。
漆器（しっき）: 漆を用いて作られた器物の総称です。堆朱の作品も漆器に含まれます。
堆朱楊成（ついしゅようぜい）: 堆朱の技法を確立したとされる人物です。

類似の漆工芸について

堆朱と名前が似ていますが、異なる技法として、以下のものがあります。

村上木彫堆朱（むらかみきぼりついしゅ）: これは新潟県村上市で作られる木彫りの上に堆朱塗りを施したもので、堆朱そのものではありません。
* 鎌倉彫（かまくらぼり）: 鎌倉彫は、木地に模様を彫り、その上に漆を塗る技法で、堆朱とは素地や工程が異なります。

これらの技法も漆の美しさを活かした素晴らしい工芸品ですが、堆朱とは異なる特徴を持っています。

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