漏電遮断器

漏電遮断器とは

漏電遮断器は、電気回路において発生する電流の漏れ（漏電）を素早く検知し、該当する回路を自動的に遮断する保安装置です。一般的には「漏電ブレーカー」とも呼ばれ、正式名称の漏電遮断器とともに広く認知されています。通常の配線用遮断器（過電流ブレーカー）が、回路の容量を超える電流（過負荷）や、電線同士が直接触れ合うことによる極端に大きな電流（短絡）から電気設備を保護することを主な目的としているのに対し、漏電遮断器は大地などへの電流の漏れによって引き起こされる感電事故や火災の発生を未然に防ぐ役割を担います。多くの製品には過電流に対する保護機能も兼ね備えられていますが、その根幹機能は漏電の検出と遮断による安全確保にあります。なお、消防用設備として設置される漏電火災警報機は、目的が火災予防であるため、感電防止を主眼とする漏電遮断器とは動作特性や感度が異なり、別の種類の機器として扱われます。

この漏電検出技術は、感電に関する研究を行っていたチャールズ・ディエール博士によって発明され、1961年にその原型が開発され、1965年に特許が取得されたことで普及が進みました。

動作原理

漏電遮断器の動作は、電流のバランス検出に基づいています。通常、電気が正しく使われている回路では、電源から流れ出た電流は、負荷を通り、すべて電源側へ戻ってきます。漏電遮断器の内部では、この行き来する電流の合計がゼロであることを常に監視しています。しかし、電線の絶縁が劣化したり、人が電圧のかかっている部分に触れたりして漏電が発生すると、回路から大地などへ電流が漏れ出し、大地を経由して電源側に戻る経路が形成されます。この結果、漏電遮断器を通過する電流において、出ていく電流と戻ってくる電流の間に差（不均衡）が生じます。漏電遮断器はこの電流の差（零相電流）を検出し、組み込まれた遮断機構を瞬時に作動させて回路を断ちます。これにより、感電や電気機器の損傷を防ぐことができます。ただし、大地から完全に絶縁された電源や回路など、漏電電流が大地を経由しない、または電源に戻ってこないような特殊なシステムにおいては、漏電遮断器は期待される効果を発揮できません。

構造と種類

漏電遮断器の内部構造は、配線用遮断器と類似していますが、漏電を正確に検出するために零相変流器（ドーナツ状のセンサー）が組み込まれている点が異なります。装置の外側には、漏電が原因で回路が遮断された際に、その状態を示す「漏電表示ボタン」や、遮断器が正常に動作するかを確認するための「テストボタン」が設けられています。これにより、遮断原因の判別や定期的な機能確認が可能です。

設置される場所や用途に応じて、いくつかの形態があります。

分電盤取り付け型: 住宅や建物の分電盤に他のブレーカーと並べて設置される最も一般的なタイプです。過電流保護機能も内蔵されている製品が多く、中には複数のブレーカー分の機能をまとめて省スペース化した製品もあります。
壁コンセント組込型（GFCIコンセント）: 特に浴室、洗面所、台所など、水回りの感電リスクが高い場所に設置されるコンセントそのものに漏電遮断機能を組み込んだタイプです。手軽に設置できますが、比較的高価なため、一つのGFCIコンセントから複数のコンセントへ電気を供給する配線が行われることもあります。この場合、どのコンセントからの漏電か特定しにくいという側面もあります。
* 電気器具プラグ組込型: ヘアドライヤーや屋外で使用する一部のポンプなど、特定の電気器具の電源コードのプラグ部分に小型の漏電遮断機能が内蔵されている製品も存在します。これにより、器具単体での安全性が高まります。

感度と規格

漏電遮断器の性能を示す重要な指標に「定格感度電流」があります。これは、何ミリアンペア（mA）の漏電電流で遮断器が動作するかを示しており、値が小さいほどわずかな漏電でも敏感に反応し遮断します。一般的に、感度によって区分され、30mA以下のものが「高感度形」、30mAを超え1000mA以下のものが「中感度形」、1000mAを超えるものが「低感度形」と呼ばれます。日本の住宅用分電盤の主幹ブレーカーには、主に30mAの高感度形が用いられています。

日本では、電気設備の技術基準の解釈により、低圧で使用する電気機械器具の金属製筐体への接地工事が省略できる条件の一つとして、電路に15mA以下の高感度形漏電遮断器を設置することが認められています。この基準は、ディエール博士の感電に関する実験結果が根拠となっています。一方、アメリカのUL規格では、4mA未満の漏れ電流では動作せず、6mAを超える漏れ電流では25ミリ秒（1/40秒）以内に動作することが定められています。また、アメリカの電気工事規程（NEC）では、浴室、屋外、台所、車庫、地下室など、感電リスクの高い特定の場所へのGFCI（漏電遮断器）の設置が義務付けられています。

使用上の注意

漏電遮断器を正しく安全に使用するためには、いくつかの注意点があります。まず、製品によっては電源を接続する側と負荷を接続する側が決まっているものがあり、これを誤って逆向きに接続すると、特に補助接点を内蔵していないタイプでは内部の部品（トリップコイルなど）が焼損する可能性があるため、接続方向の確認が必要です。また、漏電遮断器が正確に機能するためには、適切な接地（アース）工事が不可欠です。接地抵抗が大きすぎると、漏電が発生しても大地に十分な電流が流れず、遮断器が漏電を検知できない場合があります。他の系統と接地を共用すると、その系統での事故や電位変動が原因で誤動作するリスクも考えられます。逆に、等電位ボンディングなどで意図的に接地抵抗を極端に低くした場合、わずかな漏れ電流でも頻繁に遮断器が動作してしまう可能性もあります。さらに近年では、インバータ制御の機器が普及したことにより、これらの機器から発生する高周波の漏れ電流が原因で、漏電遮断器が誤動作する事例が見られます。この対策としては、インバータの設定調整、高周波ノイズを抑制するフィルターやフェライトコアの設置、あるいは高周波成分による誤動作を起こしにくい特性を持つ漏電遮断器への交換などが有効です。

その他

住宅の分電盤に使われる一部の漏電遮断器では、テストボタンの色によってその機能が区別されていることがあります。例えば、緑色のテストボタンを持つものは、過電流保護機能を持たない漏電保護専用型であることが多く、赤色のテストボタンを持つものは過電流保護機能も兼ね備えています。これは、主幹のアンペアブレーカーが過電流保護を兼ねる場合に、漏電保護のみのタイプを選択することがあるためです。ただし、短絡事故発生時の遮断性能は、専用の配線用遮断器に比べて劣る可能性があることに留意が必要です。

関連機器として、配線用遮断器があります。

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