潜水鐘

潜水鐘（ダイビングベル）とは

潜水鐘、またはダイビングベルは、かつて水中で作業を行うために使用された装置です。その構造は、底が開いた鐘型をしており、船などから水中へと吊り下げられます。この装置の最大の特徴は、水上からチューブを通じて空気を送り込むことで、内部の気圧を外部の水圧と等しく保つ点にあります。これにより、水が内部に浸入することなく、作業者は水中で呼吸をしながら活動できます。

潜水鐘の仕組み

送気は潜水鐘の生命線とも言えます。第一に、送気によって鐘内部の気圧を周囲の水圧と平衡させ、水の侵入を防ぎます。第二に、送られた新鮮な空気は、内部の空気を清浄に保ち、作業者の呼吸を助けます。この仕組みにより、潜水鐘はスクーバ器材なしに長時間水中で活動することを可能にしました。

潜水鐘の利点とリスク

潜水鐘の利点として、スクーバ器材が不要で長時間潜水できる点が挙げられます。また、大気圧潜水とは異なり、作業者は水に直接触れることができ、より開放的な環境で作業を行うことができます。しかし、潜水鐘内部は水深に応じて高圧になるため、潜水服を使用する潜水と同様に、減圧症のリスクを伴います。

歴史

潜水鐘の歴史は古く、その原型は18世紀に完成しました。19世紀には広く使用されましたが、その後、密閉型の潜水球（Bathysphere）や自律型のバチスカーフ（Bathyscaphe）が登場し、その役割を終えました。現代では、飽和潜水に用いられるPTC（人員輸送カプセル）も、ベルと呼ばれることがあります。

前史

- 紀元前4世紀後半：アレクサンドロス大王がガラス瓶に入って海に潜ったという伝説があります。
- 1535年：イタリアのフランチェスコ・デ・マルキが潜水鐘を使用し、ネミ湖に沈んだ古代ローマの沈没船から、大理石の敷石や青銅、銅、鉛の工芸品を引き上げました。これは水中考古学の先駆けとされています。
- 1538年：スペインで、革と金属製の原始的な潜水鐘が作られました。これは自由に動けるものの、内部の空気を使い切るまでの時間しか活動できませんでした。
- 1687年：アメリカ人のウィリアム・フィップスが、西インド諸島の海底に沈んだ財宝を引き上げるために潜水鐘を作りました。
- 1717年：エドモンド・ハレーが考案した潜水鐘が、水深17mの場所で1時間半にわたる作業に使用されました。空気は重りをつけた樽で供給されました。

18・19世紀

- 1790年：オランダから日本に「泳気釣鐘」が輸入され、飽の浦撃船所の築造に使用されました。
- 1793年：将軍徳川家斉の命により、出島オランダ商館に注文された潜水鐘は、ナポレオン戦争などの影響で出荷が遅れました。
- 1834年：英国製の泳気鐘がオランダ語のドイケスクロクとして長崎に到着し、長崎造船所の最初の工場である長崎製鉄所の建設に際し、修理船接岸用の岸壁築造工事に使われました。現在、この潜水鐘は長崎造船所史料館に展示されています。

20・21世紀

- 2014年：韓国のセウォル号沈没事故で、韓国警察が潜水鐘を使った捜索活動を開始しましたが、特に成果を上げることなく撤収しました。

現代における潜水鐘

現代では、潜水鐘は独立した潜水装置としては使われなくなりましたが、飽和潜水作業における人員輸送カプセル（PTC）として、その技術が応用されています。PTCは、潜水作業者が水深圧に適応した状態で、水面と作業現場を行き来するための装置で、潜水鐘の原理を応用したものです。

まとめ

潜水鐘は、初期の潜水技術において重要な役割を果たしました。その技術は、後の潜水装置の開発に大きな影響を与え、現代の飽和潜水技術にもつながっています。潜水鐘の歴史は、人類が水中の世界を探索し、活用しようとした努力の軌跡を物語っています。

外部リンク

- 泳気鐘『博物新編訳解. 巻之２　上　蒸気論・水質論』合信（ベンジャミン・ホブソン）著[他] (青山清吉, 1870)
- 泳気鐘『物理学. 上』飯盛挺造編[他] (島村利助[ほか], 1882)
- 泳気鐘（潜水機）『物理學. 上篇』飯盛挺造纂譯[他] (丸善書店, 1906)

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