ネミ湖

ネミ湖：古代の歴史と神秘が息づく湖

ネミ湖は、イタリア・ローマの南東約25kmに位置する、美しい円形の火口湖です。その静かで神秘的な雰囲気から、古くは「ダイアナの鏡」とも呼ばれていました。湖の周囲は、カーヴォ山やアルバーノ[[湖]]とともに、コッリ・アルバーニ火山を形成しており、その火山活動によって生まれたマール湖です。

皇帝の別荘地としての歴史

ネミ湖を含むカステッリ・ロマーニ地方は、ローマから比較的近い距離にあり、きれいな空気、澄んだ水、そして夏でも涼しい気候が魅力でした。そのため、古代ローマ時代から、皇帝や貴族、富裕層の別荘地として繁栄しました。湖畔には、皇帝たちが贅を尽くした別荘を建て、夏の休暇を過ごしました。特に有名なのは、皇帝カリグラが湖で遊覧するために建造した2隻の豪華なローマ船です。また、ネミ湖の隣にあるアルバーノ[[湖]]畔の町カステル・ガンドルフォには、歴代ローマ教皇が避暑に利用したガンドルフォ城もあります。

ネミ湖は、火口壁に囲まれているため強い風が吹かず、独自の穏やかな気候を持っています。湖の奥深さと美しい景観は人々を魅了し、多くのローマ貴族が湖畔に別荘を建てました。その中で、ガイウス・ユリウス・カエサルも別荘を建てましたが、すぐに取り壊してしまったというエピソードが残っています。一方で、ルキウス・カエサルは紀元前50年頃に別荘を建て、ユリウス・カエサルの暗殺者であるブルータスをキケロに引き合わせる場として利用しました。さらに、ネミの森には皇帝ウェスパシアヌスを称える記念碑も建てられています。このように、ネミ湖は歴代の皇帝たちにとって、特別な場所だったことが伺えます。

また、文人や芸術家たちもネミ湖の美しさに魅せられました。ドイツの文豪ゲーテ、イギリスの詩人バイロン、フランスの作曲家シャルル・グノーなども、夏にネミ湖を訪れています。

ディアーナ神殿：森の女神の聖域

ネミ湖の北岸には、古代ローマの森の女神ディアーナを祀る神殿跡があります。この場所は、ジェームズ・フレイザーの著書『金枝篇』で知られる、ネミの「宿り木信仰」や「祭司殺し」の舞台となった聖域です。ディアーナ神殿は、山の斜面に擁壁を築き、半円形の壁龕（へきがん）が並ぶ構造でした。神殿には、ディアーナを象徴する奉納物が多数供えられていました。その中には、狩猟用の衣装を身に着け、矢筒を下げたディアーナの小像や、青銅製の槍、牡鹿、雌鹿などの狩猟に関わる捧げもの、さらには牛、馬、豚の像など家畜に関わる捧げものが見つかっています。

ディアーナは、森の女王、野生動物や家畜の女神、そして大地の収穫の女神として崇拝されていました。また、男女に子宝を授け、産婦を助けるとも信じられていました。ディアーナの聖域では、聖なる火が絶え間なく燃やされ、彼女に仕える祭司たちは、後に後継者に殺されるという悲劇的な運命をたどったと伝えられています。

現在、神殿の建物は失われていますが、聖所の北東角や北壁の一部が発掘され、円柱や壁龕の一部を見ることができます。

カリグラのローマ船：湖底からの発掘

皇帝カリグラが建造させた2隻の豪華なローマ船は、女神ディアーナに捧げるためネミ湖に沈められたと言われています。これらの沈没船は古くから知られており、地元の漁師たちが引き揚げた品々を観光客に販売していたという記録もあります。

15世紀には、枢機卿が沈没船の調査を行い、深さ18.3mの湖底に船が横たわっていることを確認しました。その後、潜水鐘を使って船の一部が引き揚げられましたが、学術的な調査が行われないまま、多くの貴重な遺物は失われてしまいました。19世紀には、引き揚げが試みられましたが、ケーブルが切れて失敗に終わっています。

1920年代になり、イタリア海軍の技術者によって、湖の排水によって船を発掘する方法が提案されました。1927年、ムッソリーニはグイド・ウセリに湖の排水を命じ、古代ローマ時代に作られた地下水路を修復し、排水作業を開始しました。1931年までに、約4000万トンの水が排水され、湖面が20m以上低下したことで、ついに2隻の船が姿を現しました。

発掘された船は、一隻が長さ70m、幅20m、もう一隻が長さ73m、幅24mと非常に巨大なものでした。また、長さ10mの小型船や、重さ300kgを超える鉄製の錨も発掘されました。これらの船は、カリグラの時代に建造されたと考えられていますが、ティベリウス帝の時代であるという説もあります。

発掘された船は、ローマ船博物館に収蔵され一般公開されましたが、第二次世界大戦中にドイツ軍と連合軍の戦闘に巻き込まれて焼失してしまいました。現在の博物館は、1953年に再建されたものです。

ネミ湖を描いた美術作品

ネミ湖は、その美しい風景から多くの画家たちの創作意欲を掻き立ててきました。クロード・ロランの「ヌマの死を悼むエゲリア」や、リチャード・ウイルソンの「カプチン修道院のテラスから見たネミ湖とジェンツァーノ」など、多くの画家たちがネミ湖を題材にした作品を残しています。また、ターナーは『金枝』という絵画を描いていますが、これはネミ湖ではなく、アウェルヌス湖を描いたものです。

文学におけるネミ湖

ネミ湖は、文学作品にも登場しています。アンデルセンの『即興詩人』の舞台の一つであり、飯田善國の詩集『ネミ湖にて』もあります。

ネミ湖は、古代ローマ時代の歴史と神秘が息づく場所であり、訪れる人々を魅了し続けています。

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