濮議

濮議の概説

濮議（ぼくぎ）は、北宋の皇帝英宗が即位する際に発生した、彼の実父濮安懿王趙允譲に関する祭祀の議論を指します。北宋第4代皇帝仁宗は、男子が次々に夭折したため、従兄の濮王趙允譲の子である趙宗実（後の英宗）を養子として迎え入れました。仁宗が嘉祐8年（1063年）に崩御すると、趙曙は第5代皇帝として即位しました。しかし、彼の実父である濮王は4年前に亡くなり、この時点で「安懿」という諡号が贈られていましたが、その祭祀がどのように行われるべきか、という問題が浮上したのです。

濮議の背景

当時の宰相である韓琦は、この祭祀待遇を議論するために有司に諮りました。しかし、この議論は白熱し、意見が分かれることとなります。政府の中枢にいた韓琦、欧陽脩、曾公亮らは、儒教の礼の原則に基づいて、子は父を尊ぶべきであり、濮安懿王を先代皇帝にあたる“皇考”として扱うべきだとする意見を支持しました。

一方で、司馬光、范純仁、呂大防らは、英宗が仁宗の養子となったことから、彼と生父母との関係は切れていると主張し、従兄弟である濮安懿王は“皇伯”として位置づけるのが妥当であると反論しました。この両者の意見は、政府内での大きな対立を引き起こし、特に言職に従事する者たちがこの意見を強く支持しました。

論争の激化

政治の実務を担う執政系と、実務に対してチェック機能を持つ言職系の間での対立が深刻化し、双方の支持者たちが激しく衝突しました。言職は執政を弾劾し、執政は言職の者たちを左遷するなど、事態はますます厳しさを増していきました。

この状況を収拾するために、仁宗の母代わりである皇太后曹氏の意向により、濮安懿王を“皇親”として扱うことが決まり、事態は一応の収束を見ます。しかし英宗は即位から4年経たずして崩御し、その後、言職を排除した執政層も辞職を余儀なくされ、最終的に濮議は幕を下ろしました。

濮議が持つ意味

宋代における士大夫は、議論を好む傾向が強く、こうした議論は批判精神の発露でもありました。それは、同時に彼ら自身の存在感を社会に示す機会でもありました。濮議における執政と言職の対立は、政権施策への攻撃を通じて名声を得ていく力学を生み出し、この構図は後の新法・旧法の争いへの関与に繋がりました。この時期、多くの当事者が新旧の法案を巡る激しい論争に巻き込まれていくこととなったのです。

このように、濮議は単なる祭祀の問題にとどまらず、宋代における政治の構造や士大夫たちの立ち位置、さらには彼らの意識にも深く関わる重要な事件でした。

もう一度検索