士大夫

中国北宋時代以降の士大夫：科挙、地主、文人の三位一体

中国北宋時代以降、科挙官僚、地主、文人の三つの顔を持つ特権階級として君臨した存在が「士大夫」です。彼らは社会の頂点に立ち、政治、経済、文化に多大な影響を与えました。この記事では、士大夫の起源からその栄枯盛衰、そして彼らが築き上げた文化について探ります。

士大夫の起源：周代から宋代へ

士大夫の起源は、周代の身分制度にまで遡ります。周代には王や諸侯の下に「大夫」と呼ばれる貴族階級、そしてその家臣として「士」が存在しました。彼らは都市国家の指導者層でしたが、戦国時代の領域国家形成により、その体制は崩壊。士は、能力によって諸侯に仕える者へと変容していきました。

戦国末期には、荀子が「士大夫」を儒家道徳を備えた官僚と定義し始めます。漢代にはその意味が定着し、軍人を指す原義は忘れ去られました。前漢では地方豪族が経済力と人民保護を背景に、子弟を中央官僚として送り出し、支配階級を形成。彼らは周代の都市国家指導者層になぞらえ「士大夫」を自称するようになります。魏の九品官人法以降、豪族は名門意識を高め、魏晋南北朝時代には「貴族」と呼ばれるようになりますが、彼ら自身は「士」「士大夫」と称し続けました。

隋代以降の科挙実施により、貴族でなくとも官僚への道が開かれましたが、貴族階級は科挙出身者を排斥し続けました。しかし唐中期以降、経済発展に伴う新興地主層の台頭が、新たな支配階級を生み出します。この新興地主層と貴族階級の対立は、牛李の党争に発展しました。唐末の戦乱で伝統的貴族階級が衰えると、五代十国の混乱期を経て、北宋において科挙官僚を中心とした士大夫が新たな支配層として確立します。

北宋の士大夫：先憂後楽と陞官発財

北宋の趙匡胤は、武断政治からの反省を踏まえ科挙を強化、文治政策を推進しました。科挙及第者数は大幅に増え、彼らは朝廷を主導するようになります。科挙は学識のみが試される難しい試験であり、合格には長年の勉学と経済的基盤が必要でした。そのため、地主階級出身者が多くを占めました。

士大夫と呼ばれる所以は、第一に学識、第二に財産と地方社会での指導的立場です。科挙に落第した者も、郷里で教育に携わるなど、士大夫層に含まれました。宮崎市定は士大夫を「官僚・地主・商人の三位一体」と定義しています。

士大夫は「先憂後楽」（天下の憂いに先立って憂い、楽しみの後に楽しむ）の精神を持ち、国家を支える自負に満ちていました。范仲淹はその理想像として後世に称えられました。宋代には多くの名臣が登場し、政治に活躍しました。

一方で、「三年清知府、十万雪花銀」という言葉が示すように、清廉な官僚でも地方官在任中に多額の富を得ることがありました。科挙及第者の家は官戸となり、様々な特権を得ました。一族の子弟を科挙官僚に押し上げることが、最良の投資とされたのです。この現象は「陞官発財」と呼ばれました。「先憂後楽」と「陞官発財」は、士大夫の実態の両面を表しています。

士大夫のその後：郷紳の台頭と近代への影響

宋以降も、元を除き士大夫は政権中枢を担い続けました。明清時代には、地方での権力者としての側面が強調された「郷紳」階級が形成されました。中には私兵を持つ者もおり、曽国藩や李鴻章らの湘軍・淮軍は、清王朝末期の危機を救うほどの力を持っていました。また、康有為や梁啓超といった改革派も現れ、戊戌の変法という改革運動を起こしました。

士大夫は、中国の歴史と文化に深く関わった特権階級でした。彼らの功績と矛盾、栄光と影を理解することは、中国の歴史を理解する上で欠かせません。

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