瀬川菊之丞 (初代)

初代瀬川菊之丞（1693年 - 1749年）は、元禄から寛延期にかけて活躍した歌舞伎役者であり、女形の名優として知られています。俳名として路考、屋号は濱村屋を名乗り、通称は濱村屋路考と呼ばれました。弟には同じく女形役者である初代瀬川菊次郎がいます。

菊之丞は、元々大坂道頓堀の貝塚屋仁三郎に抱えられた濱村屋吉次という色子でした。弟の菊次郎と共に瀬川竹之丞の門下に入り、瀬川吉次と名を改めます。1709年、16歳の時に瀬川菊之丞と改名し、大坂で若女形として初舞台を踏みました。しかし、当時の菊之丞は容姿が平凡で声も低かったため、あまり人気が出ませんでした。芸の行き詰まりを感じた菊之丞は、25歳で役者を廃業し、大坂で源右衛門という男と共に暮らしました。その後、京都夷川通りで商家を営む生活を送りました。

しかし、役者廃業から3年後の1720年、28歳になった菊之丞は舞台に復帰します。以前の地味さはなくなり、艶やかな役者ぶりで観客を魅了し、次第に評判を高めていきました。1728年には、京市山座で『けいせい満蔵鑑』の無間の鐘の芝居で大きな名声を博しました。1730年には江戸へ下り、「三都随一の女方」と称されるまでになりました。

菊之丞は、能に取材した舞踊にも優れた作品を残しており、『道成寺』や『石橋』といった所作事を特に得意としました。1744年に初演した『百千鳥娘道成寺』は、現在では曲も振付けも失われていますが、後に初代中村富十郎が『娘道成寺』を踊る際の基礎の一つになったとされています。また、1739年に大坂で初演された人形浄瑠璃『ひらかな盛衰記』の中の、傾城梅が枝が手水鉢を使って無間の鐘を演じる場面は、菊之丞の無間の鐘の演技を模倣したものであると伝えられています。

特筆すべきは、菊之丞が日常生活においても常に女装をしていたという点です。彼の徹底した役作りは、観客に大きなインパクトを与えました。また、芸論書として『女方秘伝』を著し、後世にその芸を伝えています。

菊之丞の芸は、その後の歌舞伎界に多大な影響を与え、特に女形の演技における一つの指標となりました。彼の舞台姿は、当時の人々に深い感動を与え、今日においてもその名が語り継がれています。

参考文献には、渡辺保の『娘道成寺』（改訂版）、杉浦日向子の『大江戸観光』、野島寿三郎編の『歌舞伎人名事典』（新訂増補）などが挙げられます。

関連事項として相生獅子が挙げられます。

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