火の見櫓

火の見櫓：火災から地域を守る監視台

火の見櫓（ひのみやぐら）は、火災の早期発見、消防団の招集、そして町内への警鐘の発信に用いられた、重要な見張り台です。別名、望楼とも呼ばれます。

歴史

日本

木造建築が中心であった日本では、火災はひとたび発生すると大災害に繋がる危険性がありました。そのため、火災予防と早期鎮火は非常に重要な課題でした。特に江戸時代以降、人口増加に伴い建築物が密集するようになった市街地では、町火消（後の消防団）などの消防体制の整備が急務となり、各地に火の見櫓が建設されました。

江戸時代の消防体制は、大きな町では単独で、小さな町では近隣と組合を設けて結成された町火消が中心でした。町ごとに番屋（番所、自身番とも呼ばれる）を設置し、番人（火番、番太郎・番太）が24時間体制で警戒にあたるのが一般的でした。番人が町全体を見渡せるよう、番屋に櫓を組み、一段高い場所に見張台を設けたものが火の見櫓です。

火の見櫓の上部には半鐘が設けられ、火災を発見した番人がすぐに警鐘を鳴らし、火消を招集するとともに、町人に火災の発生を知らせました。また、町によっては半鐘を時報や各種情報発信に用いる場合もあり、鐘の鳴らし方で様々な情報を伝えていました。

火の見櫓は江戸の町から整備が始まり、昭和初期には全国ほぼ全ての地域に設置されました。しかし、消防本部・消防署への消防団の統合、電話や119番通報体制の普及、そしてサイレンや防災行政無線の導入により、その役目を終えた火の見櫓も多く存在します。

現在でも、地域の消防団が活躍している地域では火の見櫓が使用されている場合があります。しかし、番人が常駐することはなく、半鐘を鳴らして消防団を招集したり、火災予防運動期間中の防火広報、各種警報の発信などに利用されています。また、高さを利用して消防団で使用したホースの乾燥にも用いられることがあります。老朽化や耐震安全性の問題から使用を停止したり、撤去されるケースも増えています。代わりにウインチを用いたホース乾燥塔が設置されることもあります。

火の見櫓はその性質上、一般人の立ち入りが容易であったため、半鐘の盗難が相次いだ時期もありました。

日本国外

ヨーロッパでは、Türmerと呼ばれる監視員が、城や宮殿、教会などの火の見櫓に置かれたTürmerstubeで火災と敵の侵入を監視していました。火災を発見した際には、鐘を鳴らし、赤い旗や夜間ならランプを振って、消防隊に方向を知らせました。

アメリカ合衆国では、1910年に発生した大規模な森林火災を教訓に、米国森林サービスが監視塔を整備しました。監視範囲や形態は異なりますが、番人が常駐して出火を見張るという運用形態は日本のものと同様です。同様の監視塔は、ヨーロッパ、南米、アフリカなど各地に建設されました。

1930 - 1950年代にかけて各地に整備が進みましたが、1960年代になると無線技術の発展や航空機・人工衛星による監視体制の整備に伴い、その役割は縮小していきました。1980 - 1990年代には森林保全予算の削減などにより、各地で廃止が進みましたが、歴史的価値を重視する民間組織が監視塔の再建・維持のために活動し、保護されているものも多くあります。

現在でも、人工衛星では小さな初期出火を正確に監視しきれないことや、携帯電話などが圏外となる地域があるため、それらの地域を中心に活用されています。

関連項目

消防団（町火消）
半鐘、番屋
* 櫓

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