火星のココロ
『火星のココロ Beautiful Little Garden』は、漫画家・馬場民雄が手がけた日本のウェブコミック作品です。講談社とYahoo!コミックが共同で展開した「新世代ヒーロー創出」企画に基づくウェブコミック誌『ヒーロークロスライン』（略称：HXL）にて連載されました。この記事では、その続編にあたる『火星のココロ Hero come to Mars.』についても記述します。
本作は、人類がテラフォーミングと開拓を進める火星の入植地（コロニー）を舞台にしたSFストーリー漫画ですが、一般的なSFアクションとは趣を異にします。物語の中心となるのは、明るく好奇心旺盛な少女ココロと、彼女の養父で過去に大きな功績を持つアレス、心優しい養母マサコ、そして火星コロニーで唯一の超常的な能力を持つ子犬コロからなるドナー一家の温かい日常です。家族の絆や交流を中心に描く、家族漫画としての側面が強い作品と言えます。
多くのHXL作品が、架空の超常現象「オルタレイション・バースト」が発生した1999年以降の近未来、主に2010年前後を舞台にする中、本作は単行本巻頭の年表によれば2058年（火星暦0010年）という、他の作品から約半世紀も先の未来を設定しています。さらに、現在のところHXL作品の中で唯一、地球以外の天体である火星をメインの舞台としている点が最大の特徴です。地球では超常的な能力を持つ者（ノッカーズ）による犯罪が社会問題化している時代ですが、人類はすでに月や火星への移住計画を実現させ、コロニー内で地球と変わらない生活を営んでいます。また、他のHXL作品がノッカーズや犯罪者とヒーローとの激しい戦いを描くことが多いのに対し、本作では明確な変身ヒーローやスーパーヒーロー、あるいは敵対するヴィランは登場しません。戦闘シーンもほとんど描かれません。作品世界において、ココロの養父アレスは過去の功績から英雄視されていますが、物語は彼の公的な活動ではなく、家族への深い愛情や、ドナー一家をはじめとする様々な立場の開拓者たちが過酷な環境と複雑な社会の中で懸命に生きる姿に焦点を当てています。彼らを通じて、尊敬できる親としての姿や、他者を思いやり行動する人間そのものを「ヒーロー」として描いており、HXL作品群の中でも異彩を放つ作品です。
設定年代が他の作品と大きく離れているため、キャラクターが直接クロスオーバーする機会は少ないように見えますが、霊的な分身としての「蔵人」（『クランド』のキャラクター）が登場したり、他のHXL作品に関連するアイテムが描かれたり、表紙イラストで他作品のキャラクターと共に描かれるなど、積極的にクロスオーバーの試みが行われています。
火星暦0010年。地球ではノッカーズ犯罪が続く一方、人類は火星にも生活圏を広げていました。火星コロニーに暮らす小学5年生の少女ココロは、ある日、病気で入院していた養母マサコの見舞いからの帰途、見慣れない小さな生き物に出会います。ぬいぐるみのようないでたちに心惹かれたココロは、餌を与えようと日暮れの荒地へ向かいます。一方、空港から逃げ出した子犬を追っていた養父アレスは、ココロが自宅にいないことに気づき捜索に向かいます。荒地でアレスが見たのは、眠るココロに寄り添い、寒さから守るように体を発熱・発光させる子犬の姿でした。
その後、その子犬はドナー家のペットとして迎えられ、「コロ」と名付けられます。妻と娘の喜ぶ姿を微笑ましく見つめるアレスでしたが、彼にはコロが持つノッカーズ能力を監視・管理するという密かな役割が与えられていました。物語は、家族となったココロとコロを中心に、ドナー一家が火星での日常を送る中で様々な出来事に直面していく姿を描きます。
作品の舞台となる火星コロニーは、直径12kmものクレーター底部に建設された入植地で、巨大なドーム状の蓋で覆われています。人類は月面も開拓済みですが、火星コロニー内部には依然として広大な荒地が残り、地球産の家畜導入なども始まったばかりです。コロニー中心部には中央塔（センタータワー）を中心に整備された街が広がり、人々は一見穏やかな生活を送っています。
しかし、火星開拓の労働力の約8割は地球から送られる労役囚に依存しており、彼らを監督する警備軍も地球側から一方的に派遣されています。刑期を終えて火星市民となる労役囚もいますが、目印となる首輪を着けた労役囚に対する露骨な差別が存在します。火星コロニー自体は地球から独立した自治権を持つ一方、コロニー辺縁部より先の未開地域は地球の支配下という複雑な構造になっています。
作中には、1957年のスプートニク1号打ち上げから始まる宇宙開発史や、1999年の「オルタレイション・バースト」といった架空の出来事、そしてマーズ・オデッセイなどの実在の宇宙計画が共存する年表が登場します。この年表によると、2010年に人類初の火星着陸、2031年にコロニー建設開始、2044年にコロニー完成、2048年に火星評議会発足と火星暦制定という歴史が描かれています。
ココロ・ドナー: 物語の主人公。明るく純真な小学5年生の少女で、火星暦元年生まれ。5年前に孤児からドナー家の養女となり、3年前に火星へ移住。コロとの出会いを機に、彼と強い絆で結ばれます。
コロ: ドナー家で飼われる子犬。元は研究用でしたが脱走し、ココロと出会いました。火星コロニーで唯一のノッカーズであり、発光・発熱能力に加え、巨大化や高速疾走も可能です。ドナー家に引き取られた背景には、アレスによる能力監視という側面もありますが、ココロに深く懐き、常に彼女を気遣っています。
アレス・ドナー: ココロの養父でマサコの夫。屈強な体格を持ち、過去の功績で英雄視される火星評議会議員。冒険家としても知られ、火星開拓の指揮を執ります。公的な顔とは裏腹に、家族を深く愛する温かい人物です。
マサコ・ドナー: ココロの養母でアレスの妻。日本出身で心優しく穏やかながら、正義感も強い女性。過去の流産を乗り越え、ココロを愛情深く育てます。地球の動植物に詳しく、乗馬も得意。
アレクス: ドナー家の住居管理AI。高度な学習能力を持ち、家族の生活をサポート。他の管理AIとも交流でき、生物研究所のAIハナコと恋愛関係になります。
ロマノフ・カーター博士: 火星コロニー生物研究所の研究員。ココロが憧れる美形の青年ですが、社会の矛盾に直面し悩む一面も。
マギー・シルバ: ロマノフの上司で、マサコの幼馴染。ロマノフに好意を寄せている様子。
トーマ・コリンズ: ココロの同級生で腕白な少年。アレスに憧れており、ココロたちとは衝突することもありますが、物語を通して成長を見せます。
* アシュレイ・ロッシ: 物語中盤に登場する労役囚。荒々しい雰囲気ながら、根は悪人ではない人物。後に火星市民権を獲得します。
その他、ヤコブ・フィードラ博士やビブラ、他作品からのクロスオーバーキャラクターとして『クランド』の蔵人などが登場します。
第1部『火星のココロ Beautiful Little Garden』は、『ヒーロークロスライン』創刊時の初期連載作品として、2007年10月から2008年6月まで週刊で更新されました。その後、有料デジタルコミックス版や単行本（講談社刊、全3巻）が発売されました。日本の漫画としては珍しく、セリフが横書きで左から右へ読み進める形式でした。
第1部の連載終了後、『ヒーロークロスライン』の同人誌などに新作番外編が掲載されました。
第2部『火星のココロ Hero come to Mars.』は、ウェブコミック誌『KATANA』（イーブックイニシアティブジャパン）にて、2012年5月配信の第53号より不定期連載されています。こちらは第1部と異なり、右から左へ読み進める通常の漫画形式となっています。第2部も電子書籍（イーブックイニシアティブジャパン刊、既刊1巻）として発売されており、紙媒体の同人誌にも収録されています。
本作は、広大な宇宙を舞台にしつつも、一組の家族と彼らを取り巻く人々の温かい交流を描くことで、SFという枠を超えた人間ドラマとして多くの読者の心に響く作品です。
作品概要
本作は、人類がテラフォーミングと開拓を進める火星の入植地（コロニー）を舞台にしたSFストーリー漫画ですが、一般的なSFアクションとは趣を異にします。物語の中心となるのは、明るく好奇心旺盛な少女ココロと、彼女の養父で過去に大きな功績を持つアレス、心優しい養母マサコ、そして火星コロニーで唯一の超常的な能力を持つ子犬コロからなるドナー一家の温かい日常です。家族の絆や交流を中心に描く、家族漫画としての側面が強い作品と言えます。
多くのHXL作品が、架空の超常現象「オルタレイション・バースト」が発生した1999年以降の近未来、主に2010年前後を舞台にする中、本作は単行本巻頭の年表によれば2058年（火星暦0010年）という、他の作品から約半世紀も先の未来を設定しています。さらに、現在のところHXL作品の中で唯一、地球以外の天体である火星をメインの舞台としている点が最大の特徴です。地球では超常的な能力を持つ者（ノッカーズ）による犯罪が社会問題化している時代ですが、人類はすでに月や火星への移住計画を実現させ、コロニー内で地球と変わらない生活を営んでいます。また、他のHXL作品がノッカーズや犯罪者とヒーローとの激しい戦いを描くことが多いのに対し、本作では明確な変身ヒーローやスーパーヒーロー、あるいは敵対するヴィランは登場しません。戦闘シーンもほとんど描かれません。作品世界において、ココロの養父アレスは過去の功績から英雄視されていますが、物語は彼の公的な活動ではなく、家族への深い愛情や、ドナー一家をはじめとする様々な立場の開拓者たちが過酷な環境と複雑な社会の中で懸命に生きる姿に焦点を当てています。彼らを通じて、尊敬できる親としての姿や、他者を思いやり行動する人間そのものを「ヒーロー」として描いており、HXL作品群の中でも異彩を放つ作品です。
設定年代が他の作品と大きく離れているため、キャラクターが直接クロスオーバーする機会は少ないように見えますが、霊的な分身としての「蔵人」（『クランド』のキャラクター）が登場したり、他のHXL作品に関連するアイテムが描かれたり、表紙イラストで他作品のキャラクターと共に描かれるなど、積極的にクロスオーバーの試みが行われています。
あらすじ
火星暦0010年。地球ではノッカーズ犯罪が続く一方、人類は火星にも生活圏を広げていました。火星コロニーに暮らす小学5年生の少女ココロは、ある日、病気で入院していた養母マサコの見舞いからの帰途、見慣れない小さな生き物に出会います。ぬいぐるみのようないでたちに心惹かれたココロは、餌を与えようと日暮れの荒地へ向かいます。一方、空港から逃げ出した子犬を追っていた養父アレスは、ココロが自宅にいないことに気づき捜索に向かいます。荒地でアレスが見たのは、眠るココロに寄り添い、寒さから守るように体を発熱・発光させる子犬の姿でした。
その後、その子犬はドナー家のペットとして迎えられ、「コロ」と名付けられます。妻と娘の喜ぶ姿を微笑ましく見つめるアレスでしたが、彼にはコロが持つノッカーズ能力を監視・管理するという密かな役割が与えられていました。物語は、家族となったココロとコロを中心に、ドナー一家が火星での日常を送る中で様々な出来事に直面していく姿を描きます。
舞台背景
作品の舞台となる火星コロニーは、直径12kmものクレーター底部に建設された入植地で、巨大なドーム状の蓋で覆われています。人類は月面も開拓済みですが、火星コロニー内部には依然として広大な荒地が残り、地球産の家畜導入なども始まったばかりです。コロニー中心部には中央塔（センタータワー）を中心に整備された街が広がり、人々は一見穏やかな生活を送っています。
しかし、火星開拓の労働力の約8割は地球から送られる労役囚に依存しており、彼らを監督する警備軍も地球側から一方的に派遣されています。刑期を終えて火星市民となる労役囚もいますが、目印となる首輪を着けた労役囚に対する露骨な差別が存在します。火星コロニー自体は地球から独立した自治権を持つ一方、コロニー辺縁部より先の未開地域は地球の支配下という複雑な構造になっています。
作中には、1957年のスプートニク1号打ち上げから始まる宇宙開発史や、1999年の「オルタレイション・バースト」といった架空の出来事、そしてマーズ・オデッセイなどの実在の宇宙計画が共存する年表が登場します。この年表によると、2010年に人類初の火星着陸、2031年にコロニー建設開始、2044年にコロニー完成、2048年に火星評議会発足と火星暦制定という歴史が描かれています。
主要登場人物
ココロ・ドナー: 物語の主人公。明るく純真な小学5年生の少女で、火星暦元年生まれ。5年前に孤児からドナー家の養女となり、3年前に火星へ移住。コロとの出会いを機に、彼と強い絆で結ばれます。
コロ: ドナー家で飼われる子犬。元は研究用でしたが脱走し、ココロと出会いました。火星コロニーで唯一のノッカーズであり、発光・発熱能力に加え、巨大化や高速疾走も可能です。ドナー家に引き取られた背景には、アレスによる能力監視という側面もありますが、ココロに深く懐き、常に彼女を気遣っています。
アレス・ドナー: ココロの養父でマサコの夫。屈強な体格を持ち、過去の功績で英雄視される火星評議会議員。冒険家としても知られ、火星開拓の指揮を執ります。公的な顔とは裏腹に、家族を深く愛する温かい人物です。
マサコ・ドナー: ココロの養母でアレスの妻。日本出身で心優しく穏やかながら、正義感も強い女性。過去の流産を乗り越え、ココロを愛情深く育てます。地球の動植物に詳しく、乗馬も得意。
アレクス: ドナー家の住居管理AI。高度な学習能力を持ち、家族の生活をサポート。他の管理AIとも交流でき、生物研究所のAIハナコと恋愛関係になります。
ロマノフ・カーター博士: 火星コロニー生物研究所の研究員。ココロが憧れる美形の青年ですが、社会の矛盾に直面し悩む一面も。
マギー・シルバ: ロマノフの上司で、マサコの幼馴染。ロマノフに好意を寄せている様子。
トーマ・コリンズ: ココロの同級生で腕白な少年。アレスに憧れており、ココロたちとは衝突することもありますが、物語を通して成長を見せます。
* アシュレイ・ロッシ: 物語中盤に登場する労役囚。荒々しい雰囲気ながら、根は悪人ではない人物。後に火星市民権を獲得します。
その他、ヤコブ・フィードラ博士やビブラ、他作品からのクロスオーバーキャラクターとして『クランド』の蔵人などが登場します。
連載と単行本
第1部『火星のココロ Beautiful Little Garden』は、『ヒーロークロスライン』創刊時の初期連載作品として、2007年10月から2008年6月まで週刊で更新されました。その後、有料デジタルコミックス版や単行本（講談社刊、全3巻）が発売されました。日本の漫画としては珍しく、セリフが横書きで左から右へ読み進める形式でした。
第1部の連載終了後、『ヒーロークロスライン』の同人誌などに新作番外編が掲載されました。
第2部『火星のココロ Hero come to Mars.』は、ウェブコミック誌『KATANA』（イーブックイニシアティブジャパン）にて、2012年5月配信の第53号より不定期連載されています。こちらは第1部と異なり、右から左へ読み進める通常の漫画形式となっています。第2部も電子書籍（イーブックイニシアティブジャパン刊、既刊1巻）として発売されており、紙媒体の同人誌にも収録されています。
本作は、広大な宇宙を舞台にしつつも、一組の家族と彼らを取り巻く人々の温かい交流を描くことで、SFという枠を超えた人間ドラマとして多くの読者の心に響く作品です。
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