火星のモノリス

火星のモノリス

火星のモノリスとは、火星の表面に位置する、まるで人工物のように見える直方体状の巨大な岩石を指します。この奇妙な形状の物体が発見された経緯やその正体については、科学的な分析によって説明されています。

発見とその由来

この物体が捉えられたのは、アメリカ航空宇宙局（NASA）の火星探査機、マーズ・リコネッサンス・オービター（MRO）が搭載する高性能カメラHiRISEによって、2008年7月24日に撮影された画像です。この画像は、特定のファイル名であるPSP_009342_1725として記録されており、火星の南緯7度13分52秒、東経267度21分00秒付近に位置する地点を捉えたものでした。

この奇妙な物体は、およそ2009年頃に発見されると、その独特な形と地面に伸びる影から、「火星の表面に屹立する長方形の物体」として大きな注目を集めました。その姿が、SF作家アーサー・C・クラークと映画監督スタンリー・キューブリックによる金字塔的なSF作品『2001年宇宙の旅』シリーズに登場する、知的な存在によって作られた謎めいた人工物「モノリス」に酷似していたため、この岩は「火星のモノリス」という通称で広く知られるようになったのです。

科学的な説明

そのあまりに整った形状から、かつて1976年に探査機バイキング1号が撮影した画像に見られた「火星の人面岩」のように、「火星文明が残した人工的な遺物ではないか」といった推測や憶測も一部で流れました。しかし、こうした超常的な見方から離れ、科学的な観点からは別の説明が可能です。NASAの火星ミッションに携わる専門家、ジョナサン・ヒル氏らは、この火星のモノリスについて、自然現象として合理的に説明できると指摘しています。

まず、このモノリスが捉えられた画像は、MROが火星の上空およそ263.9キロメートルの高度から撮影したものです。この高度からの画像における解像度は、1ピクセルあたり約26.4センチメートルです。この解像度では、実際にはやや縦長の楕円形をした、およそ5メートル程度の大きさの巨礫を撮影した場合、その曲面部分のディテールが失われ、まるで直線で構成されたかのような長方形や直方体に見えてしまうことがあります。火星のモノリスも、まさにこのような視覚的な錯覚によって生まれたものと考えられます。

また、岩が地面に突き刺さるように屹立しているように見える長い影についても、撮影が行われたのが火星時間で午後3時27分頃と、地球で言えば夕方に当たる時間帯だったためと説明されています。太陽の高度が低かったために、地上の物体は長く伸びる影を作るからです。これは地球上でも夕方に見られる現象と同じです。

したがって、火星のモノリスは、その通称の由来となったSF的な存在とは異なり、言葉本来の意味であるラテン語の「モノリス（一つ石）」、すなわち単なる自然に存在する巨大な岩に過ぎないというのが、現在の科学的な見解です。

さらに、モノリスの周囲の地形を見ると、それは大きな崖のすぐ近くに位置しており、周辺には他にも多くの岩石が点在していることが確認できます。この状況から、火星のモノリスは、他の岩と同様に、かつて崖の上から崩れ落ちてきた巨大な岩塊の一つである可能性が高いと考えられています。ジョナサン・ヒル氏自身も、「もし誰かが意図的にモノリスのような構造物を設置するとしたら、このような崖の近くという場所は、おそらく最も適さない場所だろう」と述べています。なぜなら、たとえ崖の上に何かを置いたとしても、長い地質学的な時間の流れの中で、それは必ず崩落し、地面に転がり落ちた後に砂などに埋もれて見えなくなってしまうからです。これは、このモノリスが人為的なものではなく、自然の力によってそこに存在していることの傍証とも言えます。

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