火縄銃 (江戸川乱歩)

火縄銃

『火縄銃』は、著名な作家江戸川乱歩による短編探偵小説です。この作品は1932年に平凡社版の『江戸川乱歩全集』第11巻に収められ、その成立に至る背景は興味深いものがあります。乱歩は早稲田大学在学中の大正時代、1913年から1914年にかけて日記の余白にこの物語の内容を思いつき、その後しっかりとした形に仕上げました。

登場人物

物語の語り手、主人公である「私」は学生で、探偵趣味の友人橘梧郎と共に物語を進めます。橘は頭脳明晰で、事件に対して鋭い洞察力を持っています。一方、林一郎は「私」の別の友人であり、彼の義弟林二郎が事件の容疑者となります。この林兄弟の関係の中には、兄一郎と弟二郎の間にある緊張感が物語の重要な要素です。また、事件を捜査する田舎刑事も登場し、様々な視点から物語が展開します。

あらすじ

物語の始まりは、私が友人橘梧郎とともに林兄弟の滞在するホテルに遊びに行ったところからです。しかし、そこで衝撃的な事実が判明します。なんと、兄の一郎が殺されているのです。捜査が進む中、弟の二郎が容疑をかけられますが、橘は兄と弟の関係性を考慮し、二郎が真犯人であるはずがないと主張します。なぜ彼はそう考えるのでしょうか。人間関係や動機、そして証拠の解釈が複雑に絡み合い、真相に近づくための鍵となります。

トリック

『火縄銃』では、モーリス・ルブランの作品やメルヴィル・デイヴィスン・ポーストの小説に見られるトリックが用いられています。特にルブランの『八点鐘』やポーストの「ズームドルフ事件」と同様の手法が取り入れられており、乱歩自身がその点を自負する発言も残しています。特に彼は、西洋の犯罪実話からインスパイアを受けたことを認めており、独自性があるトリックとして表現されています。さらに、ポーストの作品における初出も紹介されています。

出版

『火縄銃』は、1974年には角川文庫の『三角館の恐怖』として出版され、1995年には河出文庫の「江戸川乱歩コレクションⅥ」にも掲載されました。その後、2004年には光文社の『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』として再版され、今なお多くの読者に親しまれています。この作品は、乱歩の他の作品と同様に、探偵小説のひとつの頂点として評価されています。

まとめ

『火縄銃』は、江戸川乱歩の短編小説の中でも特に興味を引く作品です。探偵趣味の学生たちが織り成す緊迫した状況、そこから導かれる人間関係のドラマ、そして巧妙に仕組まれたトリックが読者を引き込む要素となっています。乱歩が築き上げた独特の世界観は、今なお新たな解釈を生む礎となっているのです。

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