灰田有紀彦

灰田 有紀彦

灰田 有紀彦（はいだ ゆきひこ）は、日本の作曲家、そしてスティール・ギターやウクレレの名手として昭和期に活躍した多才な音楽家です。本名を灰田 可勝（かいしょう）といい、灰田 晴彦（はるひこ）の別名でも知られています。また、歌手として名を馳せた灰田 勝彦は彼の弟にあたります。

生涯の始まりと日本への定住

1909年（明治42年）4月24日、灰田有紀彦はハワイ州ホノルルに、日系二世として生を受けました。しかし、彼の運命は予期せぬ出来事によって大きく変わります。父の納骨のために家族と日本を訪れていた際、1923年（大正12年）に関東大震災が発生。未曾有の混乱の中、彼はパスポートを含む一切の家財を失ってしまい、ハワイへの帰国が困難となります。これにより、やむなく日本での生活を続けることとなったのです。

日本に留まることになった彼は、獨協中学校に進学。その後、中央大学を経て慶應義塾大学に学びますが、こちらは中途退学しています。

音楽家としての歩み

灰田の音楽への情熱は早くから芽生え、1928年（昭和3年）には自身のハワイアン・バンド、「灰田晴彦とモアナ・グリー・クラブ」を結成しました。このバンドは戦前から戦中にかけて、日本におけるハワイアン音楽の旗手として広く知られるようになります。彼は単なる演奏家としてだけでなく、作曲や編曲にも才能を発揮し、その活動範囲を広げていきました。

1935年（昭和10年）頃にはプロの音楽家として本格的に活動を開始。さらに、東京・杉並区高円寺の自宅にギター教習所を開設し、多くの後進の指導にあたります。その門下生には、朝吹常吉の息子や近衛文麿の娘、金子堅太郎の孫といった、当時の著名な財界人や政治家の家族が含まれていたことは特筆されます。

戦時下の苦難と作曲家としての開花

太平洋戦争が始まると、ハワイアン音楽は敵性音楽と見なされ、演奏活動が困難となる不遇の時期を迎えます。しかし、この期間こそ、灰田は作曲家としての才能を大きく花開かせました。彼のペンから生まれた楽曲は、時代を超えて歌い継がれる名曲となります。

特に、弟である歌手の灰田 勝彦が歌唱した「森の小径」や「鈴懸の径」は、困難な時代にあっても多くの人々の心を掴み、大ヒットを記録しました。演奏活動が制限される中で、彼は作曲という新たな表現の道を見出し、その才能を遺憾なく発揮したのです。

戦後の活動と功績

終戦を迎えた1945年（昭和20年）、灰田 有紀彦は弟の勝彦とともに新たなバンド「灰田晴彦とニュー・モアナ」を結成。再びハワイアン音楽の普及に尽力しました。彼は生涯を通じてハワイアン音楽への深い愛情を持ち続け、その発展のために情熱を燃やしました。日本ウクレレ協会の会長を務めるなど、その振興に多大な貢献を果たしています。

長年にわたる彼の功績は高く評価され、1979年（昭和54年）には第21回日本レコード大賞において顕彰されました。日本のハワイアン音楽界におけるパイオニアとしての地位を確立した灰田 有紀彦は、1986年（昭和61年）10月16日に77歳でその生涯を閉じました。彼の残した功績と楽曲は、今もなお多くの人々に愛されています。

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