炎の筆魂

島本和彦短編集『炎の筆魂』シリーズ解説

漫画家・島本和彦氏の才能の一端に触れることができる短編集シリーズ、それが朝日ソノラマから刊行された『炎の筆魂』です。本稿では、シリーズの起点となった『炎の筆魂』に加え、その続編にあたる『炎の筆魂弐之拳』、『炎の筆魂参之拳』、そして『アオイ炎の筆魂』に収録された様々な作品群についてご紹介します。

『炎の筆魂』とその初期の輝き

シリーズ第1弾となる『炎の筆魂』には、『燃えよペン』第2部や、角川書店「月刊少年エース」で発表された「根性戦隊ガッツマン」などが収録されています。特に「根性戦隊ガッツマン」は、タレントの宮村優子氏がヒーローのリーダーとなり、未来から現れた地球人たちに根性を叩き込むというユニークな設定が光ります。

徳間書店「月刊少年キャプテン」に掲載された「ちょっとだけUターン」は、死後に三途の川で人生を振り返る主人公が、かつて受けた唯一の情けに気づき、その借りを返すために現世へ一時的に舞い戻るという奇想天外な物語です。また、講談社「ヤングマガジンダッシュ」に発表された「アカデミー」では、一切の妥協を許さずに自主製作映画のリアリティを追求する二人のクリエイターの熱い奮闘が描かれています。これらの作品からは、初期島本作品に共通する情熱や独自の視点を感じ取ることができます。

『炎の筆魂弐之拳』に集う多様な世界観

シリーズ第2弾『炎の筆魂弐之拳』には、さらに幅広いジャンルの作品が収められています。

カプコンの人気対戦型格闘ゲームをコミカライズした「私立ジャスティス学園外伝」は、ゲームのキャラクターたちに加え、島本氏が生み出したオリジナルキャラクター「熱血隼人」が登場し、後にこのキャラクターがゲーム本編にも採用されシリーズの顔となるという興味深い展開をたどりました。

NHK出版から創刊準備号として出た「コミックムウ」に掲載された「天下統虫物語」は、漫画家を目指す主人公が様々な漫画家のアシスタント経験を積むという構想でしたが、掲載誌の正式刊行が実現しなかったため、石ノ森章太郎氏のもとでの体験を描いた第1話のみで未完となりました。作中には、『燃えよペン』にも登場する編集者らしき人物が登場し、ファンにはお馴染みの光景が広がります。

白泉社「ヤングアニマル」で連載された「ザ・勝負!!」は、宮本武蔵、クレオパトラ、北条時宗といった歴史上の偉人たちの功績や成功哲学を、ギャグテイストで描き出した全3話の作品です。その他にも、結婚詐欺に遭いながらも式場予約だけを盾に結婚を誓う男を描いた「ブライダルソルジャー」（講談社「ミスターマガジンハッピー増刊」）、セガのキャラクターを扱った販促漫画「せがた三四郎北極激闘編」（白泉社「ヤングアニマル」）、そして「無謀キャプテン第0話」（徳間書店「月刊少年キャプテン」）など、バラエティ豊かな作品が収録されています。

『炎の筆魂参之拳』とパロディの妙

シリーズ第3弾『炎の筆魂参之拳』には、パロディ作品の数々が目を引きます。

イースト・プレス刊行のアンソロジー「COMIC CUE」に掲載された「マグマ大使地上最大のロケット人間の巻」は、手塚治虫氏の公認パロディとして制作されました。『マグマ大使』の主人公が、『鉄腕アトム』の有名エピソード「地上最大のロボット」を下敷きに、自身の手塚漫画内での地位に不満を抱き、他の手塚キャラクターたちに次々と決闘を挑むという展開は、手塚作品への深い愛情と独自のユーモアが融合した傑作です。マグマ大使、モル、ガム、そして対決相手としてガロン、ビッグX、サンダーマスク、ロビタ、さらには「手塚漫画史上一番恐ろしいロボット」やボッコ、カオス、ゴジ博士といったキャラクターが登場し、手塚ファンを唸らせる内容となっています。

また、小学館「週刊少年サンデー増刊号」に掲載された「一番星のジャッカル」は、同名作品のプロトタイプとして発表されたものです。その他にも、『マッチ売りの少女』をパロディ化した「島ちゃんお涙劇場」（週刊少年サンデー増刊号）や、洋画のパロディ四コマ漫画「島ちゃんの4コマ劇場」（週刊少年サンデー）、史村翔氏原作の「ファイナルワン」（週刊少年サンデー）、そして「炎のラウンド」（ビッグコミックスピリッツ増刊）、「逆襲棋士瞳」（ビッグコミックスピリッツ増刊）など、多岐にわたる初期短編がまとめて読めるのが特徴です。

『アオイ炎の筆魂』に再録された名作たち

最後に触れるのは『アオイ炎の筆魂』です。この短編集には、先に挙げた作品群の中から複数の作品が再録されています。

特に注目すべきは、バンダイ「サイバーコミックス」に初掲載された「あしたのガンダム」でしょう。『あしたのジョー』と『機動戦士ガンダム』という二つの金字塔を組み合わせた audacious なパロディ作品で、『機動戦士ガンダム』の物語をなぞりつつ、『あしたのジョー』の名場面を巧みに織り交ぜています。クライマックスで描かれるマチルダ中尉の戦死と力石徹の死を重ね合わせた描写は、ファンの間で大きな話題となりました。また、ドム登場シーンでモビルスーツの駆動音とも取れるBGMを「でっこんでーで」という独特の擬音で表現した箇所は、島本氏ならではの感性が光る一幕として知られています。

『アオイ炎の筆魂』には、前述の「マグマ大使地上最大のロケット人間の巻」「アカデミー」「天下統虫物語」なども再録されており、シリーズを横断して島本作品のバラエティとエネルギーをまとめて体感できる一冊となっています。

島本和彦氏の情熱とユーモア、そして様々なジャンルへの果敢な挑戦が集約された『炎の筆魂』シリーズは、漫画表現の多様性を改めて感じさせてくれる貴重な短編集と言えるでしょう。

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