為定本源氏物語系図

為定本源氏物語系図：源氏物語系図研究における重要な一資料

為定本源氏物語系図は、古系図と呼ばれる源氏物語の登場人物間の関係を示した図表の一つです。伝二条為定筆本源氏物語系図とも呼ばれ、大島雅太郎旧蔵の巻物一巻から成り立っています。極札と箱には「為定卿筆」の記述があり、その名称の由来となっています。

この系図は、古系図の中でも特に祖本的地位を占めるとされる九条家本と比較検討することで、その特徴が明らかになります。為定本は九条家本と比べ、系譜に収録されている人物数が増加している点が挙げられます。これは後世の増補によるものと考えられます。しかし、いくつかの重要な登場人物の表記方法は九条家本と一致しており、増補本系統の代表例である為氏本とは明確に異なる点が見られます。こうした特徴から、池田亀鑑は為定本を九条家本系統に分類しています。

その後、秋香台本や帝塚山大学本など、系譜への増補が認められない古系図が発見されています。しかし、為定本は現在でも増補の痕跡が認められる古系図の中で、九条家本に最も近いものとして位置づけられています。このことは、為定本が九条家本から比較的近い時期に作成され、かつ、九条家本を基礎として作成された可能性を示唆しています。

為定本と九条家本の共通点：人物呼称の一致

為定本と九条家本は、いくつかの登場人物の呼称において共通性が見られます。これは両系図の深い関係性を示す重要な証拠です。この共通性によって、為定本が九条家本系統に属するという池田亀鑑の分類の妥当性が裏付けられます。一方、為氏本などの他の系図では、これらの登場人物の呼称が異なっているため、為定本と為氏本は異なる系統に属すると結論づけられます。

収録人物数と系図の年代推定

為定本に収録されている人物の数は141名です。これは、他の古系図と比較することで、為定本の年代や位置づけを考える上で重要な手がかりとなります。常磐井和子は、系図に収録されている人物数が少ないほど古い原型に近いという法則を提唱しています。この法則に基づくと、秋香台本や帝塚山大学本（共に133名）といった九条家本系統の完本と比べれば為定本は多いものの、為氏本（177名）と比較すると著しく少ない人数です。このことから、為定本は九条家本に次ぐ、原初的な形態を残す古系図であると推測できます。

まとめ：為定本源氏物語系図の意義

為定本源氏物語系図は、その九条家本との類似性と独自の増補という二つの特徴を併せ持ちます。これは、源氏物語系図の成立過程や伝播過程を理解する上で非常に重要な資料です。収録人物数の分析や、主要人物の表記法の比較を通して、為定本は九条家本系統の中でも初期の段階に位置づけられ、源氏物語系図研究に大きく貢献する資料といえるでしょう。今後の研究においても、為定本は重要な参照資料として活用されることが期待されます。 今後、より詳細な分析を通じて、為定本源氏物語系図の成立背景や、その後の系図の展開に与えた影響がさらに解明されることが期待されます。

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