無政府時代 (イングランド)

無政府時代：イングランド王位継承を揺るがした内乱

1135年から1154年まで続いたイングランドの「無政府時代（The Anarchy）」は、ノルマン朝最後の国王ヘンリー1世の死をきっかけに勃発した王位継承争いです。この内乱は、イングランド社会に深い傷跡を残し、その後のイングランドの歴史に大きな影響を与えました。

混乱の始まり：ヘンリー1世の死と王位継承問題

ノルマン朝3代目の国王ヘンリー1世は、多くの庶子を持ちながらも、相続権を持つ嫡子は娘のマティルダと息子ウィリアムのわずか2人でした。しかし、ウィリアムは1120年のホワイトシップの遭難で亡くなり、ヘンリー1世はマティルダを後継者として指名、有力なフランス貴族アンジュー伯ジョフロワ4世と結婚させ、その地位を強化しようとしました。しかし、この決定は、イングランドとノルマンディーの諸侯の反発を買いました。諸侯は女性を王位継承者として認めることに抵抗があり、アンジュー家との結びつきにも警戒感を抱いていたのです。

スティーブンの即位とマティルダの抵抗

1135年、ヘンリー1世が崩御すると、彼の姉アデラの息子であるブロワ伯エティエンヌが、迅速にロンドンに入り、イングランド王スティーブンとして即位しました。スティーブンは、ヘンリー1世から臨終の際に王位を譲り受けたと主張し、教会の支持も得ていました。一方、マティルダは、スティーブンを不正な国王とみなし、ローマ教皇への訴えを起こしましたが、教皇はスティーブンの即位を承認しました。

内乱の激化：抗争と寝返り

スティーブンの統治は、失政が目立ちました。その隙を突いて、マティルダの支持者であるグロスター伯ロバートが反乱を起こし、1139年、マティルダ自身もイングランドに上陸、反スティーブン勢力と合流しました。リンカーンでの戦闘でスティーブンを捕虜としたマティルダは一時的に優位に立ちましたが、高圧的な態度が反感を買って、勢力は衰え始めました。捕虜交換でスティーブンが釈放された後も、両者の間で戦闘は断続的に続けられました。この内乱は、イングランド全土を混乱に陥れ、社会経済にも大きな打撃を与えました。各地で略奪や破壊が横行し、民衆は苦しみました。貴族たちは、自らの利益を追求し、次々と陣営を変え、戦況は流動的なままでした。

和解とプランタジネット朝の到来

1153年、スティーブンの嫡男ウスタシュ4世の急死という事態が起こります。この出来事は、スティーブンに大きな打撃を与え、和平交渉へと繋がりました。スティーブンは、マティルダの息子アンリを王位継承者として認め、和平協定を結びました。1154年にスティーブンが亡くなると、アンリはヘンリー2世として王位に就き、プランタジネット朝が始まりました。無政府時代は、こうして終焉を迎えたのです。

無政府時代の影響と歴史的意義

無政府時代は、イングランド社会に大きな混乱をもたらしました。しかし、この内乱は同時に、王権と貴族の勢力関係に変化をもたらし、後のイングランドの政治制度の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。また、この時代の出来事は、多くの歴史書や文学作品に題材として取り上げられ、今も人々の関心を集めています。この内乱は、日本の南北朝時代や応仁の乱にも似た展開を見せ、諸侯の利益が優先される中で、寝返りが相次ぎ、長期にわたる混乱が引き起こされました。王位継承問題だけでなく、ヘンリー2世の出自をめぐる噂や、マティルダとスティーブン、そしてマティルダと夫ジョフロワの関係性など、様々な憶測が飛び交い、この時代の複雑さを物語っています。

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