照菊

照菊（てるぎく）は、大正13年（1924年）に東京都葛飾にて、本名飛田静江として生を受けました。昭和期を代表する女性歌手の一人として知られ、特に日本調の楽曲で多くの聴衆を魅了しました。

幼い頃、花柳界に身を置いた経験が、後の表現力に影響を与えたともいわれます。歌の世界に進むことを志し、作曲家大村能章が設立した日本歌謡学院の門を叩き、研鑽を積みました。そして昭和22年（1947年）9月、キングレコードより「出島かもめ」（高橋掬太郎作詞・大村能章作曲）で念願の歌手デビューを果たしました。

デビュー後、着実にキャリアを重ね、昭和24年（1949年）には「後追い笠」が成功を収め、注目を集めます。昭和26年（1951年）には、かつて新橋喜代三が歌唱してヒットした「明治一代女」をカバーし、見事リバイバルヒットを記録するなど、初期からその実力を示していました。

一時期はヒットに恵まれない時期もありましたが、昭和28年（1953年）に転機が訪れます。熊本県に古くから伝わる哀切な民謡「五木の子守唄」を吹き込み、これが空前の大ヒットとなりました。この楽曲に対するレコード会社の期待は非常に高く、当時のレコード店向けパンフレットには、「この一枚こそ出色の出来栄えとして自負して憚らぬ照菊一世一代の傑作盤」と記され、大々的に宣伝されました。この「五木の子守唄」の大成功により、照菊は一躍その名を知らしめ、キングレコードを代表する人気日本調歌手としての揺るぎない地位を確立したのです。

その後も精力的に活動を展開し、昭和30年（1955年）には、春日八郎のヒット曲「お富さん」のアンサーソングとして発表された「与三さん」もヒットを記録しました。昭和31年（1956年）12月31日には、東京宝塚劇場で開催された第7回NHK紅白歌合戦に「恋の迷い鳥」で初出場を果たし、全国的な人気を確固たるものとしました。

昭和33年（1958年）、照菊はキングレコード文芸部のディレクターだった和田寿三と結婚。これを機にキングレコードを退社し、一旦歌手活動から身を引きました。

しかし、数年後には再び歌の世界へと戻り、歌手としての活動を再開します。昭和40年代に起こった懐メロブームの中では、「なつかしの歌声」（テレビ東京）といった人気テレビ番組にも出演し、往年のファンを喜ばせました。昭和40年代後半には、所属レコード会社をキングレコードから日本コロムビアへ移し、民謡、端唄、流行歌といった多様なジャンルの楽曲を数多くレコーディングするなど、その晩年まで歌への情熱を燃やし続けました。

昭和63年（1988年）、照菊はその生涯を閉じました。享年64。

以下に、照菊の主な代表曲を挙げます。

代表曲（流行歌）

昭和24年（1949年）1月：『後追い笠』
昭和26年（1951年）9月：『明治一代女』
昭和29年（1954年）8月：『野球けん』（共唱：若原一郎）
昭和30年（1955年）2月：『与三さん』
昭和30年（1955年）5月：『後追い三味線』
昭和31年（1956年）4月：『お軽と勘平』（共唱：春日八郎）
昭和31年（1956年）8月：『恋の迷い鳥』

代表曲（民謡）

昭和28年（1953年）12月：『五木の子守唄』、『ひえつき節』
昭和31年（1956年）5月：『秩父音頭』
昭和32年（1957年）9月：『長崎ぶらぶら節』

NHK紅白歌合戦には、第7回（1956年）に1度出場しています。

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