熊谷直継

熊谷直継（くまがい なおつぐ）とその歴史的背景

熊谷直継は、鎌倉時代末期に活躍した武士で、安芸国本庄系熊谷氏の当主です。彼の家族関係や遺産を巡る争いは、当時の社会において重要な影響を与えました。

直継は、熊谷直満の嫡男であり、母は正室の真継ですが、出自は不明です。彼には異母弟にあたる熊谷直経もいて、通称は余次として知られています。直継が生まれた時期は不詳ですが、父直満が所領を分割するための譲状を作成したのは徳治3年（1308年）4月21日とのことです。この譲状では、直継と直経の間で所領の分割が行われ、万一両者が子供を残さずに死去した場合、残された兄弟が相続することが明記されていました。

元応元年（1319年）に直満が死去すると、直継は家督を継ぎますが、所領は直経と分割されることになります。しかし、その3年後、直継は子供を持たないまま病で亡くなってしまいます。直継の遺言に基づけば、彼の遺産は直経が継承することになれば安定的な相続が行われるかに思えました。

ところが、直継の母・真継が直経に対して「直経が直継の遺児である虎一丸の所領を横領した」と訴えたことがきっかけで、両者の対立が激化します。さらに直経もまた、真継が自分の相続権を侵害しているとして幕府に訴え出るという流れになりました。

嘉暦3年（1328年）に行われたこの訴訟では、真継の代官が直継の所領について「母である真継が相続した後、虎一丸が次に相続する」と主張しました。一方、直経は虎一丸が直継に先立って死去したと反論し、直満が生前に書いた書状を証拠として提出しました。この書状には、直満が虎一丸の死亡を嘆き、直経に対して虎一丸の葬儀について相談を行った内容が記されていました。

訴訟の進行中、真継側は別の書状を提出し、虎一丸は生きていると主張しましたが、幕府の役人が直継の子供の数について質問した際、真継側が回答を避けたため、これに疑念を抱きました。すると後で提出された書状が偽造されたものであることが判明し、真継には偽書の罪が問われ、最終的に直経の全面勝訴となる結果に至りました。この結果、真継は配流を命じられました。

この訴訟の背景には、家族間の対立や武士階級内での権力争いが深く関わっています。加えて、直継家から直経の庶子家への継承の変化も無視できない要素です。また、熊谷氏は武蔵から安芸へと拠点を移したことで、地元の文書も次第に減少し、新たに安芸に関連する文書が増加する現象が見られました。これにより、熊谷氏の歴史的な背景がより一層複雑になっていったのです。

参考文献

• - 高橋修 編著『シリーズ・中世関東武士の研究 第二八巻 熊谷直実』（戒光祥出版、2019年）ISBN 978-4-86403-328-2
• - 柴﨑啓太「鎌倉御家人熊谷氏の系譜と仮名」（『中央史学』30号、2007年）
• - 大井教寛「熊谷氏の系譜と西遷について」（『熊谷市史研究』3号、2011年）

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