熱帯樹 (戯曲)

『熱帯樹』の概要

『熱帯樹』は、三島由紀夫による全3幕の戯曲で、家族内に潜む愛と憎しみの葛藤を描いた作品です。物語は、兄妹の禁断の愛を中心に展開し、母が父を殺させようとする黒い陰謀が絡む中、彼らの運命がどのように変わっていくのかがテーマになります。この作品は、三島の代表作の一つとして、多くの舞台で上演されており、特にフランス語圏では高い評価を受けています。

作品の背景

『熱帯樹』は、1960年に発表され、三島由紀夫はフランスの地方で実際に起きた事件からインスピレーションを受けてこの戯曲を執筆しました。この家族が抱える闇は、財産を狙った母の企みと、それに気づいた娘の反抗、そして兄妹の禁断の愛が交錯しています。この作品において、登場人物たちの関係性は極めて複雑であり、一人ひとりの心情や動機が深く掘り下げられています。

あらすじ

物語は1959年秋の一日の午後に始まります。病床にいる郁子は、その最期が近いことを感じ取っています。彼女は、母親の律子が家族を財産のために狙っていると疑い、兄の勇に母を殺すように頼みます。郁子と勇の関係は、兄妹という枠を超えた禁断の愛に満ちています。

第一幕では、郁子が兄に自らの想いを告げ、果てしない母への恐怖を語ります。律子は兄弟の愛情を見抜きながらも、自らの目的のために勇を操ろうとします。この時点で、家族の絆はすでに破綻しかけています。

第二幕では、律子が勇に父を殺すように命令し、勇がそのことに悩む様子が描かれます。父の恵三郎は、家族を思う気持ちと母に対する嫉妬の間で葛藤し、果たして家族という絆はどのように崩壊していくのかが焦点となります。郁子は、家族に不穏な空気が漂っていることに気づき、彼女なりの手段で兄を助けようとします。

第三幕では、勇が母を殺す決心を固めますが、律子の誘惑に屈して実行できないまま、二人は心を通わせます。最後には兄妹が心中を決意し、自転車で海へ向かう姿が描かれます。この行動は、彼らの愛が唯一無二のものであったことを示しています。残された律子は、不敵な笑顔を浮かべながら「熱帯樹」の植樹を企てます。

登場人物

• - 郁子: 病に侵された娘。兄への愛が強い。
• - 勇: 郁子の兄。心優しいが迷いがちな性格。
• - 律子: 厳しい母。家庭内で巧妙に権力を操る。
• - 恵三郎: 貴族的な父。内面的な葛藤を抱える。
• - 信子: 従妹。知恵のある視点を持つ。

評価

『熱帯樹』は、三島由紀夫の作品の中でも特に評価が高いものです。舞台は今なお多くの劇団で再演され、作品が持つ普遍的なテーマと深い人間ドラマは世代を超えて感動を与えています。

最後に

三島由紀夫の『熱帯樹』は、愛と憎しみ、禁断の関係というテーマを通じて、人間の心の奥深さを探求する作品です。舞台上での葛藤がどのように視覚化されるのか、観る者に強い印象を残します。この戯曲は、文学だけでなく演劇の面でも大きな影響を与え続けています。

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