燻ゆる情炎

燻ゆる情炎

『燻ゆる情炎』（くゆるじょうえん）は、1925年にアメリカのユニバーサル社によって製作・公開されたサイレント映画です。この作品は、当時既に評価を得ていたクラレンス・ブラウンが監督を務めました。ブラウン監督は、『アンナ・カレニナ』や『愛の調べ』といった著名な作品も手がけており、本作でもその手腕を発揮しています。主演には、実力派のポーリン・フレデリックと、新進気鋭のローラ・ラ・プラントが起用されました。

物語の概要

物語の中心となるのは、40歳にして自身で工場を経営する実業家、ジェーン（ポーリン・フレデリック）です。彼女は、歳の離れた従業員であるロバート（マルコム・マクレガー）と恋に落ちます。ジェーンはロバートを個人的な秘書に抜擢しますが、これが工場内で不穏な噂を巻き起こしてしまいます。ロバートは、そうした周囲の憶測を払拭し、ジェーンへの真摯な気持ちを示すために、彼女にプロポーズを決意します。二人は結婚の約束を交わし、新たな生活の始まりを心待ちにしていました。

しかし、その矢先に物語は新たな展開を見せます。ジェーンの妹であるドロシー（ローラ・ラ・プラント）が、大学を卒業し、故郷へと戻ってきたのです。若く魅力的なドロシーの出現により、ロバートの心は瞬く間に彼女へと傾いてしまいます。抗いがたい感情に引き寄せられた二人は、姉であるジェーンに隠れて密かに逢瀬を重ねるようになります。姉思いの優しい心を持つドロシーは、ジェーンに真実を告げることができないまま時が過ぎていきます。そして、そんな妹とロバートの秘密を知らぬまま、ジェーンはロバートと正式に結婚します。

夫婦として生活を共に送る中で、ジェーンは夫であるロバートと、自身の妹ドロシーの間に特別な感情が通じ合っていることに徐々に気づき始めます。愛する夫と、大切な妹が互いを深く愛し合っているという辛い事実に直面したジェーンは、二人の行く末を案じ、ある重大な決断を下すことになります。この「ある行動」が、物語のクライマックスを彩り、観客に強い印象を残します。

批評家の評価

本作は、公開当時から高い評価を受けています。特に、映画批評家のハル・エリクソンは、この映画を「第一級のサイレント『ソープ･オペラ』である」と絶賛しました。彼は、ポーリン・フレデリックやローラ・ラ・プラントを含む「すばらしい役者陣による完全無欠なまでの演技」と、クラレンス・ブラウンによる「あざやかな演出」が、この作品を傑作たらしめている要因であると評しています。感情豊かな俳優たちの演技と、視覚的に訴えかけるサイレント映画ならではの表現力が、複雑な人間関係と情念を巧みに描き出している点が評価のポイントと言えるでしょう。

『燻ゆる情炎』は、公開から長い年月を経た現在でも、サイレント時代の優れたドラマ作品として、多くの映画ファンや研究者から注目されています。大人の恋と、家族の絆、そして避けられない現実というテーマを、力強い演技と演出で描き出した一作です。


参考情報:
燻ゆる情炎 - allcinema
Smouldering Fires - IMDb (英語)
Smouldering Fires - AllMovie (英語)
Smouldering Fires at SilentEra
Photos from Smouldering Fires website

もう一度検索