爪切地蔵

爪切地蔵

岐阜県恵那市山岡町久保原にひっそりと佇む爪切地蔵は、石に線で刻まれた独特な地蔵菩薩像です。この地蔵は、傍らにある曹洞宗の林昌寺の境内に、他の石仏群と共に安置されています。

由緒

爪切地蔵には、古くから語り継がれる興味深い伝説があります。

鎌倉時代末期の文保元年（1317年）、丹波の僧侶である草伯が、行基作と伝わる薬師如来像を携えてこの地を訪れました。村人は草伯の徳に感銘を受け、草庵を建てて迎え入れたとされています。

ある夜、草伯の庵に一人の老僧が宿を求めました。翌朝、老僧は姿を消していましたが、代わりに一枚岩の表面に浅い線で地蔵菩薩像が刻まれていました。その地蔵は、少し傾いた状態で残されていたといいます。

草伯は、この老僧が弘法大師であり、一夜にして爪で地蔵を刻んだと考え、「爪切地蔵」と名付けました。伝説によると、弘法大師は地蔵を立てようとしたものの、夜明けを告げる鶏の鳴き声と人の気配を感じて、未完のまま立ち去ったとされています。

村人がこの地蔵を真っ直ぐに立て直そうとしたところ、災厄や病気が発生したため、元の傾いた状態に戻したと伝えられています。この出来事から、地蔵の姿をそのままにすることが重要視されるようになりました。

また、祭りの際には花火を奉納することが習わしとなっており、この祭りを怠ると疫病や災難が発生すると信じられています。

爪切地蔵は、恵那市の史跡に指定されていますが、実際の制作年代は江戸時代であるとされています。この事実は、伝説と歴史が入り混じった、爪切地蔵の独特な魅力を際立たせています。

祭事

爪切地蔵は、地元の人々によって大切に守り継がれており、毎年欠かさず祭事が行われています。

• - 大祭: 毎年8月16日には大祭が執り行われ、花火が奉納される花火大会が開催されます。この花火大会は、地域の人々にとって重要な行事であり、多くの人々で賑わいます。
• - 小祭: 毎月第3日曜日には小祭が行われ、祈願や祈祷が執り行われます。地域住民の信仰の場として、静かに祈りを捧げる場となっています。

アクセス

爪切地蔵へのアクセスは以下の通りです。

• - 鉄道: 明知鉄道「花白温泉駅」で下車後、徒歩約40分。
• - 自動車: 中央自動車道「恵那インターチェンジ」から国道257号線を浜松方面へ約30分。

関連項目

日本各地には、爪切地蔵と同様に、線刻で地蔵が刻まれた珍しい石仏がいくつか存在します。

• - 静岡県駿東郡小山町竹之下にも爪切地蔵があります。
• - 長野県松本市波田の盛泉寺には線彫一石六地蔵尊像があります。
• - 石川県志賀町北吉田には石造地蔵菩薩座像があります。
• - 群馬県高崎市山名町の光台寺には線刻地蔵菩薩立像石仏があります。
• - 兵庫県加古川市平荘町東小畑には線刻地蔵石仏があります。
• - 三重県志摩市御座には爪切不動尊があります。

これらの地蔵もまた、それぞれの地域で大切にされており、独特の歴史や文化を伝えています。

参考文献

• - 『山岡町史　通史編』　第四編　中世　第三章　室町幕府　第五節　中世の生活　瑠璃光寺(久保原)　p256～p258　山岡町史編纂委員会　昭和59年
• - 『恵那郡史』　終篇　雑志　第二章　傳説　爪切地蔵　p750　恵那郡教育会　1926年

爪切地蔵は、その独特な姿と、弘法大師の伝説が結びついた、非常に興味深い文化遺産です。訪れる際には、その歴史と伝説に思いを馳せ、静かにその姿を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

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