父子星

父子星（おやこぼし）

「父子星」は、日本の代表的な歌手である三橋美智也が、昭和55年（1980年）にシングルレコードとして世に送り出した楽曲です。この歌は、父から息子へ向けられる無償の愛、親子の絆という普遍的なテーマを温かく、そして切なく歌い上げています。

リリースまでの特異な経緯

この楽曲には、発表に至るまでに非常に興味深い背景が存在します。実は、「父子星」は当初、今から13年遡る昭和42年（1967年）にリリースされる予定で企画されていました。しかし、制作側で歌詞の内容が、当時の社会規範や感覚から見て、特に離婚といったデリケートな状況を連想させる点で表現が「生々しすぎる」との判断が下されたのです。結果として、一度完成していたにもかかわらず、日の目を見ることなく倉庫に眠ることとなり、いわゆる「お蔵入り」状態となってしまいました。

その後、時を経て昭和55年になり、ようやく改めてシングル曲として発表される運びとなりました。この曲が、13年の歳月を経て再び世に出ることになった背景には、時代の変化や、楽曲が持つメッセージの再評価があったのかもしれません。レコード盤には、この楽曲がたどった数奇な運命、すなわち「父子星誕生秘話」と題された音楽評論家・本橋栄治氏による解説文が付記されており、当時のファンにその経緯が伝えられました。

楽曲情報

作詞: 横井弘
作曲: 細川潤一
編曲: 白石十四男

作詞の横井弘氏は、三橋美智也のヒット曲を数多く手掛けたことでも知られています。作曲の細川潤一氏、編曲の白石十四男氏も、この楽曲に情感豊かな旋律と彩りを加えています。

B面「哀唱琴の湖」について

本シングルのB面には、「哀唱琴の湖（あいしょうことのうみ）」という楽曲が収録されています。この曲もまた、三橋美智也の深い歌唱力が光る一曲です。

「哀唱琴の湖」は、昭和53年（1978年）にリリースされたアルバム『三橋美智也民謡の世界』に初めて収められた新民謡です。このアルバムは、三橋氏の歌手生活25周年を記念して制作されたもので、日本の各地に伝わる民謡を新たな解釈で歌い上げたり、新しく創作された民謡が収録された意欲作でした。

「哀唱琴の湖」の舞台となっているのは、青森県に位置する十三湖です。この湖畔の情景や、そこで紡がれるであろう哀愁を帯びた物語が、楽曲の中で描かれています。

B面楽曲情報

作詞: 東次郎
* 作曲・編曲: 桜田誠一

A面の「父子星」が親子の情愛をテーマにしているのに対し、B面の「哀唱琴の湖」は特定の情景を描写した新民謡であり、対照的ながらも三橋美智也の多様な歌唱世界を示す組み合わせとなっています。

このように、「父子星」というシングルは、表題曲が発表までにたどったユニークな歴史と、B面曲に収められた新民謡という、それぞれに深い背景を持つ楽曲で構成されており、三橋美智也の音楽活動における一つの重要な作品として位置づけられます。親子の絆を歌った「父子星」の歌詞は、時代を超えて多くの人々の心に響く普遍性を持っています。

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