父帰る

『父帰る』（ちち かえる）

『父帰る』は、大正6年（1917年）に発表された菊池寛の戯曲で、全一幕から成る作品です。初めて刊行されたのは、第四次『新思潮』の大正6年1月号であり、この時は同人誌に掲載されていたため一般にはあまり知られていませんでした。しかし、3年後の大正9年（1920年）に二代目市川猿之助により舞台化されると、その評価は急上昇し、菊池寛を代表する作品となりました。

登場人物

• - 黒田賢一郎：28歳の主人公
• - 新二郎：賢一郎の弟（23歳）
• - おたね：妹（20歳）
• - おたか：彼らの母（51歳）
• - 宗太郎：彼らの父

あらすじ

物語の舞台は明治40年ごろ。主人公の賢一郎を含む家族のもとに、家出から20年ぶりに父の宗太郎が帰ってくるところから始まります。彼は家庭を顧みず去り、未だにその影響は家族に色濃く残っています。家族は貧困の中で日々の生活を支えており、特に賢一郎は弟妹を中学まで進学させるために奮闘してきました。

父が帰ってきた際、母と弟妹は期待と喜びを持って迎え入れますが、賢一郎は彼を拒絶します。父は過去の行動の責任を感じることなく家に戻りますが、家族の温もりに触れることなく自ら家を去ります。その後、母の悲痛な叫びに心を動かされた賢一郎は、弟を伴い父を追いかけることになります。物語は、家族の絆と傷を描いた感情的な展開となっていきます。

映画化

この作品は何度も映画化されており、1935年には『父帰る　母の心』というタイトルでリメイクされました。1927年に公開された初めての映画版では、松竹キネマが製作し、野村芳亭が監督を務めています。この映画は、賢一郎役に岩田祐吉を起用し、他にも多くの俳優が名を連ねていました。1935年版もまた、多くの有名な俳優たちによって演じられ、作品の人気を確立しました。最近では1952年にも再度映画化され、観客の心をつかみました。

舞台化

また、舞台化も頻繁に行われており、2006年にはシス・カンパニーによる特別な上演が実施され、演出に河原雅彦を迎えて注目を集めました。主演は人気俳優の草彅剛が演じ、当時の観客に強い印象を残しました。その後、2015年には劇団東京ハイビームによって再び舞台化され、現代的な視点からのアプローチが火花を散らしました。

『父帰る』は家庭の温かさと厳しさ、家族の関係を深く掘り下げた作品であり、劇的な展開により観客の感情を揺さぶります。日本の演劇史においても重要な位置を占めており、今後も数多くの人々に愛され続けることでしょう。

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