新思潮

新思潮：日本の文壇を彩った文芸雑誌の興亡

1907年、小山内薫によって創刊された「新思潮」は、当初は総合的な文芸雑誌としてスタートしました。チェーホフの翻訳やイプセン研究会の記録など、多様な内容を掲載していましたが、資金難により短期間で休刊します。しかしその後、東京大学の学生たちによって再興され、同大学を拠点とする同人誌として発展を続けました。

多彩な作家と時代の変遷

「新思潮」は、その歴史において幾度も休刊と復活を繰り返しました。それぞれの時代を代表する作家たちが参加し、多様な文学作品を発表しました。

特に第3次から第4次「新思潮」において活躍した菊池寛、芥川龍之介、久米正雄、松岡譲らは「新思潮派」と呼ばれ、大正文学を代表する存在となりました。芥川龍之介の「鼻」が夏目漱石から絶賛されたことも、この時代の大きな出来事です。

第2次「新思潮」には谷崎潤一郎が参加し、「誕生」や「刺青」といった代表作を発表しました。この時代は、東大の学生たちが中心となり、既存の「新思潮」の名を借りる形で活動していました。フランス文学の翻訳を巡る問題で発売禁止処分を受け、財政難から再び休刊に追い込まれました。

その後も、「新思潮」はさまざまな世代の作家たちに受け継がれていきます。第6次には川端康成らが参加し、『文藝時代』へと発展。第15次では、三浦朱門、阪田寛夫、荒本孝一ら旧制高知高校出身者を中心に、能島廉、林玉樹、村上兵衛ら東大出身者、曽野綾子、有吉佐和子など、多くの女性作家も参加し、「才女の時代」とも呼ばれる盛況を極めました。

「新思潮」という名と伝統

「新思潮」という名称は、興味深い点があります。前任者の了解を得れば誰でも使用できるという、緩やかなルールが存在しました。そのため、異なる世代、異なる作家たちが、この名称を継承しながら、それぞれの時代の文壇に貢献したと言えるでしょう。

21世紀の復活

2022年、「新思潮」は21世紀で初めて復活を果たしました。これまで、前任者の了解を得るという慣例が復活の大きなハードルでしたが、東京大学メディアデザイン部の活動とクラウドファンディングによる資金調達によって、その壁を乗り越えました。

参考文献

高見順『昭和文学盛衰史』講談社 1965年
梶山季之『愛と死と青春と 第十五次「新思潮」自選集』噂発行所 徳間書店 1972年
大村彦次郎『文壇挽歌物語』筑摩書房 2011年
松田義男『芦田均著作目録』2019年

「新思潮」は、単なる文芸雑誌ではなく、日本の近代文学史において重要な役割を果たした、一つの文化現象と言えるでしょう。その歴史と、そこに携わった多くの作家たちの功績は、今後も語り継がれていくに違いありません。

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