父系の指

『父系の指』の概要

『父系の指』は松本清張による短編小説であり、1955年9月に『新潮』にて初めて発表されました。その後、加筆修正を経て1956年11月に短編集『風雪』として刊行されました。また、1995年にはテレビドラマ化され、多くの観客に親しまれました。

あらすじ

物語は、一人称の視点から語られ、主人公の父についての思い出が中心に描かれています。主人公の父は伯耆の山村に生まれ、19歳で養家を離れ広島で母と結婚し、やがて九州へ移ります。しかし、父は性格がとても穏やかで優しいため、だらしない一面もあり、結果的に家族は困難な生活を強いられることになります。その中で、しっかり者の母の弟がしばしば主人公の指を見て、「お前の指は親父そっくりだ」と笑い、そこには主人公に対する揶揄が含まれているように感じられました。主人公はその笑いの裏に隠された意味、すなわち「つまらない男になってしまうかもしれない」という期待を苦々しく思っていました。

エピソード

この作品は一人称で進行しており、初刊時の三人称とは異なるスタイルで書かれています。清張は作品を自伝的要素が強いものとしながらも、自らを真っ直ぐに語ることには抵抗感を持っていたといいます。また、彼の語るところによれば、本作の半分は事実であり、残りは虚構で構成されています。松本清張は1948年に父の故郷である矢戸を初めて訪れ、その際の体験が小説に表れていると言われています。清張はこの地を4度訪れ、1961年にはその様子を『半生の記』の中で紹介しました。1984年には、清張の父の生家を見下ろす場所に文学碑が設置され、幼少期の父との思い出が刻まれたことが知られています。

テレビドラマ

1995年1月には、TBS系列の「月曜ドラマスペシャル」枠で『松本清張特別企画・父系の指』としてドラマ化されました。視聴率は14.6%に達し、作品は第32回ギャラクシー賞大賞、さらに1995年度芸術祭作品賞を受賞するほどの評価を受けました。ドラマは清張自身やその家族を明示することはないものの、作家としての回想を交えて描かれています。

キャストとスタッフ

ドラマには、長塚京三が松本清張役、橋爪功が父の峯太郎役を演じ、泉ピン子や杉山とく子も出演しました。スタッフには高木凛が脚本を書き、堀川とんこうが演出を手掛けています。音楽は中冨雅之が担当しました。撮影には杉並区や青梅市、真木温泉などの協力があり、地域の風土が作品に反映されています。

参考文献・関連資料

清張の私小説と魯迅の「故郷」を比較した研究や、作品の成立過程に関する論文も存在し、本作がどのように形作られたのかを探る手がかりとなるでしょう。松本清張の豊かな文学世界を知る一助として、多くの読者に親しまれている作品と言えます。

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