片岡仁左衛門 (12代目)

十二代目 片岡仁左衛門：華麗なる芸風と悲劇の生涯

十二代目片岡仁左衛門（1882-1946）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本を代表する歌舞伎役者の一人です。八代目片岡仁左衛門の孫にあたる彼は、幼少期からその才能を開花させました。1885年、東京・千歳座で初舞台を踏み、その後、幾つかの役名を経て、1901年には四代目片岡我童を襲名。着実にキャリアを積んでいきます。

1936年、東京・歌舞伎座で上演された『馬切』の織田信孝役で、ついに十二代目片岡仁左衛門を襲名。これは、当時東京歌舞伎界で女形が不足していたという背景もあり、関西から招かれた仁左衛門にとって大きな転機となりました。

仁左衛門の芸域は広く、女形から立役まで幅広くこなせる実力派でした。端正な容姿と、時に含みのある、しかし調子の良い口跡は、観客を魅了しました。特に『生写朝顔話』の深雪、『壇浦兜軍記』の阿古屋といった女形、そして立役では『義賢最期』の木曽義賢、『頼朝の死』の源頼家などが当たり役として知られています。

奈河彰輔は仁左衛門の芸風について、「姿、特に眼が美しく、やや含みがちの口跡ながら調子も良く、娘方、二枚目の範囲での芸域は広く、阿古屋、朝顔の深雪、お染、櫻時雨の吉野太夫、そして立役では、伊左衛門、松平長七郎、躄勝五郎「鮨屋」の弥助などの当り役では、他の追随を許さなかった。鷹揚な品位は独特のもので、新歌舞伎でも「頼朝の死」の頼家は高く評価されている。反面、どことなく冷たさと暗さのある芸風であったが、六世梅幸没後の十五世羽左衛門の相手役の位置に坐ってから、明るさが舞台に出るようになった。三千歳、十六夜、お富など、江戸前の役々をこなし、玲瓏とした色気を見せたが、誠実な生世話物の味が出にくかったのは、やはり性格的な冷たさによるものであろうか」と評しています。

私生活では、1941年に妾との間に子供ができた後、正妻が病死。その後、前年に引退していた元日活女優と再婚しました。長男は十三代目片岡我童、次男は二代目市村吉五郎（十五代目市村羽左衛門の養子）、三男は六代目片岡芦燕と、歌舞伎界に貢献する子供たちに恵まれました。

しかし、戦後の1946年3月16日、仁左衛門は東京の自宅で、妻、子供、女中と共に、住み込みの門人によって殺害されるという悲劇に見舞われました。この事件は「片岡仁左衛門一家殺害事件」として、現在も語り継がれています。

十二代目片岡仁左衛門は、類まれな才能を持ち、多くの観客を魅了した名優でした。しかし、その華やかな舞台人生とは裏腹に、悲劇的な最期を遂げた彼の生涯は、多くの人々に深い印象を与え続けています。彼の残した功績は、歌舞伎史に大きな足跡として刻まれています。

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