片岡敏郎

片岡敏郎：広告界の先駆者、その生涯と功績

片岡敏郎（1882年10月3日 - 1945年1月31日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本の広告業界における先駆者的な存在です。特に、その卓越したコピーライティングの才能から「天才」と称され、数々の記憶に残る広告を生み出しました。静岡県焼津市出身の片岡は、広告業界に革新をもたらした人物として、その名は今もなお語り継がれています。

生い立ちと転身

片岡は、旧制開成中学校を卒業後、海軍兵学校への進学を志すも、志望を叶えることはできませんでした。その後、静岡中学校を卒業し、文筆家を目指して泉鏡花に師事しますが、この道も断念します。1906年にはシャム公使館に勤務し、1909年から1912年にかけては海外を渡航するなど、多彩な経験を積みました。

広告業界への転身は、偶然の出来事から始まりました。片岡は森永製菓の広告を見た際に、その出来に不満を抱き、「自分ならもっと良いものが作れる」と感じたことがきっかけだったと語っています。この時の率直な思いが、彼の新たなキャリアを切り開くことになりました。

広告業界での活躍

1913年に日本電報通信社（現在の電通）に入社しますが、翌年には森永製菓に広告部長として迎えられ、その才能を開花させます。森永時代には、当時人気絶頂だった横綱・太刀山の手に「天下無敵 森永ミルクキャラメル」と書き込む斬新な広告で、一躍その名を轟かせました。

1919年には、壽屋（現サントリーホールディングス）の創業者である鳥井信治郎にその才能を見出され、広告部長として移籍します。壽屋では、「オラガビール」や「サントリー白札」（現サントリーホワイト）、「赤玉ポートワイン」、そして「スモカ歯磨」など、数々の傑作広告を生み出しました。

特に、赤玉ポートワインの広告では、新聞紙の一面を切り抜き、そこに商品名と墨丸を付けるという、大胆かつ革新的な手法を用い、世間を驚かせました。また、日本初のヌードポスターとされる、松島栄美子をモデルにした赤玉ポートワインのポスターも、大きな話題を呼びました。これらの広告は、当時の常識を覆すものであり、片岡の創造性と大胆さを象徴しています。

1932年、壽屋が経営難によりスモカ歯磨の製造権を売却したことに伴い、片岡も壽屋を退社し、新たに設立された寿毛加社の取締役となります。その後は、スモカ歯磨の広告制作に専念しました。

戦時下の1940年には、新聞上で自由に広告文案を創作することができない状況に不満を抱き、廃業広告を出すという異例の行動に出ました。1943年に寿毛加社を退職し、1945年1月31日に金沢市でその生涯を閉じました。享年64歳でした。

片岡敏郎の功績

片岡敏郎は、広告にエンターテイメント性を取り入れた先駆者として知られています。太刀山の手に「天下無敵 森永ミルクキャラメル」と書き込む広告や、新聞紙を使った赤玉ポートワインの広告など、その発想は自由奔放で、従来の広告の概念を覆すものでした。これらの広告は、発売前から話題を作り出すという、今日の広告戦略にも通じるものでした。

片岡の功績は、壽屋がサントリーとなった現在でも、その企業広告の企画立案に受け継がれています。彼の斬新なアイデアと、消費者の心を捉えるキャッチコピーは、広告業界に大きな影響を与え、その功績は計り知れません。

片岡が手掛けた仕事の一端は、『片岡敏郎スモカ広告全集』で知ることができます。2017年には、NHK BSプレミアムの「英雄たちの選択」で「スキャンダルかアートか？　広告のパイオニア・片岡敏郎」と題して特集が組まれ、その業績が改めて評価されました。

片岡敏郎関連図書

『片岡敏郎スモカ広告全集』 スモカ歯磨き株式会社編 マドラ出版 1992.3
『広告エポックの人 片岡敏郎 ＜ブレーン別冊＞』 東京コピーライターズクラブ編 誠文堂新光社 1968

関連人物

岸本水府 - 同時期に活躍した広告文案家で、片岡をライバル視していた。江崎グリコの豆文広告を考案したことで知られています。

外部リンク

スモカ歯磨・片岡敏郎広告ギャラリー
第3回・「広告というものは真実を表現する以外にない」～片岡敏郎の言葉～ 岡田芳郎 2016.04.22
いま読み直す広告・コミュニケーションの名著『片岡敏郎スモカ広告全集・別冊付録』 片岡敏郎 著

片岡敏郎は、日本の広告史において、その名を永遠に刻むべき偉大な人物です。彼の革新的なアイデアと情熱は、現代の広告業界にも大きな影響を与え続けています。

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