片羽絞

片羽絞（かたはじ め）

片羽絞は、柔道の固技における絞技の1つで、講道館や国際柔道連盟 (IJF) で正式に認められている技です。IJFの略号はKHJで、別名として「襟責め（えりぜめ）」とも呼ばれます。

概要

片羽絞の名前の由来は、片腕を抱えた際に、まるで片方の翼（羽）を広げたように見える様子からきています。レスリングのハーフネルソンに似た体勢から首を絞める技であり、瞬時に相手を制圧できる強力な絞め技です。この技は、片方の手（腕）で相手の腕を抱え込み、もう片方の手（腕）で絞めるという、複合的な絞め技の形態をとります。

基本形としては、例えば右手で相手の首を絞める場合、まず背後から左手を相手の左腋の下に通し、相手の左襟を下へ引いて襟のたるみをなくします。次に、右手を首に回し、たるみのない状態にした左襟をできるだけ深く握ります。最後に、左手を相手の首の後ろに回し、首を前に押し出すようにしながら、右手を引いて頸動脈を絞めます。

この基本形は送襟絞と途中までの手順が似ていますが、左手の使い方が異なります。片羽絞では、左手は首を後ろから固定するように使用します。

試合での実例

グランドスラム・デュッセルドルフ2019の男子73kg級準決勝では、海老沼匡選手がムサ・モグシコフ選手に対して片羽絞を決め、勝利しました。全柔連の記録では「送襟締」となっていますが、実際には片羽絞であると考えられます。基本形のように相手の背後から技を仕掛け、相手の正面に回って極める方法も存在します。

また、同大会の女子70kg級準々決勝では、サリー・コンウェイ選手がマリア・ベルナベウ選手に片羽絞を仕掛けました。IJFの記録では送襟絞とされていますが、これも実際には片羽絞である可能性があります。

変化形

片羽絞には、いくつかの変化形が存在します。

返絞: がぶりの体勢から相手もろとも横に回って絞める片羽絞です。左腕で相手の右腕を抱え、自身の襟を持ち、右手で相手の右前襟を持ちます。相手を半回転させ、自身は一回転し、正対して上から崩上四方固などの体勢で絞めます。横転せずに、がぶりの体勢のまま極めることもあります。小説『姿三四郎』に登場する片羽絞は、この返絞に近い形です。
逆返絞: がぶりの体勢から相手もろとも横に回って絞める片羽絞の一種です。右手で相手の右横襟を取り、右肩や右上腕部で相手の左側頭部を抑えます。左腕で相手の右腕を抱え、相手を半回転させ、自身は一回転し、正対して上から崩袈裟固などの体勢で絞めます。
羽交絞: 崩袈裟固を掛けながら行う片羽絞です。相手の右側からの崩袈裟固で、相手の右腕を左腋で抱え、左手で相手の左襟を逆手で掴み、腋固の一種である片閂を作ります。右手で相手の右襟を順手で掴んで絞めます。片十字絞にも似ています。阿武教子選手が試合でこの技を極めたことがあります。
ヘリコプター・チョーク: 片脚を相手の頭部に掛けながら行う片羽絞です。うつ伏せの状態の相手に対し、左手で相手の右襟を持ち、相手の左側頭部に右脚を掛けます。相手の右側に後転、側転、または前転しながら、右腕で相手の右腋を通して右腕を制し、相手を右に横転させ、右手または右前腕部で相手の後頭部を押して絞めます。
手車絞: 片十字絞の後十字絞に似た片羽絞です。相手の背後から左手で相手の右肩上を通して相手の左前襟を掴み、右手を相手の左肩上を通して相手の左胸から左腋下の辺りを抱えます。左手を引き、右手は上方に絞り上げて絞めます。
総緘絞: 片脚で側頭部を抑えながら行う片羽絞です。がぶりの姿勢の上から両腕を相手の両腋の下に入れ、掌を上に向けて肘で相手の肘関節を取ります。その後、両手で自身の膝裏を固く掴み、相手の両腕を制し、相手もろとも横転して両者仰向けの体勢になります。右手で相手の後頭部を通して相手の左襟を取り、右脚を上げて右膝裏で相手の左側頭部を抑え、左腕で相手の右腕を抱えたまま絞めます。
* ジェルビ・チョーク: 相手の上衣の裾を使った片羽絞です。がぶりの姿勢から、自身(取)は右腕を相手(受)の左腋に通し、受の首の右側に当てた取の上衣の左裾を右手でつかみ、左膝裏で受の後頭部を抑えて絞めます。かつては日本の柔道界では禁止技とされていましたが、2013年世界柔道選手権大会でヤーデン・ジェルビ選手がこの技で勝利し優勝したことから、議論を呼びました。現在はIJFの試合審判規定において反則とされています。

片羽絞は、その多様な変化形と、試合の流れを一瞬にして変える威力から、柔道において重要な技の一つと言えるでしょう。

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