片腕サイボーグ

片腕サイボーグ（Vendetta dal futuro / Hands of Steel）

1986年にイタリアで製作されたセルジオ・マルティーノ監督によるSFアクション映画。原題は『Vendetta dal futuro』、英語圏では『Hands of Steel』のタイトルで知られる。ダニエル・グリーンが主演を務め、ジョージ・イーストマンやジョン・サクソンらが共演した。人類と機械の境界線で葛藤するサイボーグの逃亡と、彼を執拗に追跡する組織との壮絶な戦いが描かれる。

物語の概要

舞台は近未来。冷酷な実業家フランシス・ターナーは、人間とロボットの技術を融合させた最新型サイボーグ「パコ」を生み出す。パコは70%が機械、30%が人間という組成を持ち、ターナーは彼を危険な環境活動家の暗殺に利用しようと企てる。しかし、パコは任務遂行中に芽生えた人間性に抗えず、暗殺計画を失敗させてしまう。

創造主に背いたパコは、追われる身となり、遠く離れたアリゾナの砂漠地帯にある寂れたカフェ・モーテルへと逃げ込む。そこで身分を隠し、静かに暮らそうとするパコだったが、政府機関やターナーの差し向けた追跡者たちは容赦なく迫る。自身の内にある機械部分と人間部分の間で揺れ動きながら、パコは過酷な追跡者たちとの死闘に挑むことになる。

製作背景とキャスト

本作はアメリカ合衆国のアリゾナ州でロケーション撮影が行われ、特に壮大なグランドキャニオンや実験的な都市アーコサンティでのシーンが物語に独特の背景を与えている。撮影中には、俳優のクラウディオ・カッシネッリがペイジでのヘリコプター事故により急逝するという悲劇に見舞われた。本作は彼の遺作となっている。

主人公パコを演じたのはダニエル・グリーン。悪役ターナーにはベテラン俳優のジョン・サクソンが配され、物語に深みを与えている。他にもジャネット・アグレン、ジョージ・イーストマンなどが出演。日本語吹替版も製作されており、パコ役を若本規夫が担当するなど、豪華な声優陣が参加した（初回放送は1991年テレビ朝日『ウィークエンドシアター』）。監督・原案はセルジオ・マルティーノが務め、複数の脚本家が参加して物語を構築した。

作風と影響

『片腕サイボーグ』は、1980年代にイタリアで数多く製作された、ハリウッド大作、特にジェームズ・キャメロン監督の『ターミネーター』からの影響を強く受けたSFアクション映画群の一つと位置づけられている。その作風は単に『ターミネーター』を模倣するだけでなく、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』のようなサイバーパンク的な要素や、人間と機械のアイデンティティといったテーマも取り入れている点が特徴的である。

批評家からは「すべてのハイブリッド映画を終わらせるハイブリッド映画」と評されるほど、様々な先行作品の要素を大胆にミックスしていることが指摘されている。また、そのプロットの一部が後にシルヴェスター・スタローン主演の映画『オーバー・ザ・トップ』に借用されたという見方もある。

公開と評価

本作は1986年にイタリア本国で検閲を通過し公開された。国際的には「Atomic Cyborg」や「Hands of Steel」といった異なる英語タイトルでリリースされた。日本においては、『吐きだめの悪魔』との二本立てで劇場公開された。

批評面では、特にアクションシーンが高く評価されている。カーチェイス、ヘリコプターでの追跡、そしてサイボーグ同士の接近戦など、低予算ながらも豊富なアクションが展開される点がB級映画ファンから支持を受けた。特に、主人公が複数の追手や変装したサイボーグと戦う場面は評価が高い。また、クラウディオ・シモネッティによる音楽も作品の雰囲気を盛り上げている。物語の序盤は政治的な要素が多く退屈に感じられるという指摘もあったが、全体としてはテンポ良く、決して観客を飽きさせない作りになっている。一部の荒唐無稽な展開（例えば、警察がサイボーグの存在を認識するまでに時間がかかる点など）も、B級映画としての魅力として受け止められている。総じて、「まずまずな時間潰し」であり「低予算の楽しさ」を味わえる作品として、カルト的な人気を得ている。

もう一度検索