牧口雄二

牧口雄二：カルトプリンスの光と影

牧口雄二（1936年6月29日 - 2021年12月5日）は、東京都板橋区出身の映画・テレビ監督、プロデューサーです。慶應義塾大学文学部卒業後、1960年に東映に入社し、京都撮影所で山下耕作や中島貞夫の助監督を務めました。

エログロと叙情の融合：初期の映画作品

1975年、牧口は東映ポルノ『玉割り人ゆき』で監督デビューを果たします。当時の東映社長・岡田茂にその才能を認められ、『五月みどりのかまきり夫人の告白』など、エログロと叙情を織り交ぜた作品を手がけました。1977年の『らしゃめん』を最後に劇場映画から離れ、テレビドラマの世界へ。

しかし、牧口が残した初期の映画作品は、海外の好事家を中心に再評価が進み、フランスでは日本に先駆けてDVD化されるなど、カルト的な人気を博しました。『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』や『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』といった作品は、名画座でリバイバル上映されるなど、その独特な世界観が改めて注目を集めています。

牧口作品の特徴は、アンダーグラウンドの「エロ・グロ・ナンセンス」と「純粋で美しいファッショナブル」という、相反する要素を組み合わせた映像美にあります。学生時代に傾倒した江戸川乱歩や夢野久作、竹久夢二などの影響が色濃く反映された、他に類を見ない「牧口イズム」は、多くの観客を魅了し、映画業界に衝撃を与えました。

テレビドラマでの活躍：時代劇の巨匠へ

劇場映画から離れた後、牧口はテレビドラマの世界で活躍します。「暴れん坊将軍」シリーズ、「柳生一族の陰謀」「影の軍団」シリーズ、「長七郎江戸日記」など、数々の時代劇でプロデューサーや監督を務め、その名を広く知らしめました。

人となり：温厚で才能にあふれた異才

牧口は、頭の回転が速く、独特の世界観を持つ人物として知られていました。その一方で、私生活は文学少年のように生真面目で、温厚で物静かな性格だったと言われています。気取らず高ぶらない人柄は、多くの俳優・女優から慕われていました。

俳優の川谷拓三とは助監督時代から親交が深く、川谷が売れっ子になった後も、牧口のデビュー作にノーギャラで出演するなど、深い絆で結ばれていました。また、佐藤蛾次郎を自身の作品に多数起用し、その才能を高く評価していました。

最期と遺産

東映退社後は映像業界から退き、2021年12月5日、老衰のため85歳で亡くなりました。妻を早くに亡くし、自身も癌を患いましたが、晩年は一人旅を楽しむなど、穏やかな生活を送っていたそうです。

牧口雄二が残した作品は、今もなお多くのファンを魅了し続けています。エログロと叙情が織りなす独特な世界観は、日本映画史における特異な足跡として、語り継がれていくことでしょう。

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