五月みどりのかまきり夫人の告白

概要

『五月みどりのかまきり夫人の告白』は、1975年に公開されたポルノ映画（一般映画）です。主演は、元祖セクシー熟女とも称される五月みどり。監督は牧口雄二、脚本は安西英夫が務めました。東映京都撮影所が製作し、東映が配給。併映作品は、菅原文太主演の『新仁義なき戦い 組長の首』でした。

この映画は、五月みどり演じる魔性の女に男たちが次々と誘惑され、破滅していくという内容です。公開時には、五月の実際の男性遍歴を土台にしたと宣伝され、話題を呼びました。

牧口雄二監督の3作目にあたりますが、2作目の『玉割り人ゆき 西の廓夕月楼』が半年間お蔵入りしたため、本作が先に公開されました。

ストーリー

タレントの五月みどりは、大学教授で評論家の夫・津島泰一と、おしどり夫婦として知られていました。しかし、実際には2人の仲は冷え切っており、欲求不満を募らせたみどりは、車に乗って性の冒険旅行に出かけます。

パート1:
サーキット場で命知らずな走りを見せるレーサー・沢井と関係を持ったみどりは、彼を死の恐怖に陥れ、成績を落とさせ、最終的には事故死させてしまいます。

パート2:
みどりは、隣家の主人・湯川研一郎を巧みに誘惑します。のぼせ上がった研一郎は、みどりと一緒になるために家と土地の権利書を売り払い、新居用のマンションを購入します。

パート3:
産婦人科を訪れたみどりは、幻想的な気分に襲われ、股を開きます。川村良夫医師との行為を人に聞かれ、新聞に「悪徳の婦人科医、次々患者を犯す」という記事が掲載されてしまいます。

パート4:
湖畔の別荘で、みどりはホモの恋人に捨てられた美少年・泉弘美に出会います。みどりは弘美を優しく愛撫し、女の素晴らしさを教え、弘美はホモを卒業します。

パート5:
みどりはスポンサーであるヴィナス化粧品に挨拶に行きます。そこの重役・松本が、みどりにしつこく言い寄ります。

パート6:
ゴルフ場でみかけた好みの男・木元健次と親しくなろうと、ゴルフバッグを間違えて持ち帰ったみどり。バッグを開けると、中からライフルが出てきます。実は男は殺し屋でした。数日後、みどりの家に忍び込んだ健次とセックスをし、2人の生活が始まりますが、健次を狙う殺し屋の襲撃に遭い、彼は全身を蜂の巣にされて息絶えます。

キャスト

五月みどり：五月みどり
津島泰一：山城新伍
星川小百合：森崎由紀
津島家の執事：浪花五郎
湯川研一郎：大下哲矢
湯川静子：衣麻遼子
沢井武雄：白石襄
レース場アナウンス：友金敏雄
川村良夫：岡八郎
泉弘美：風戸佑介
滝田卓郎：五十嵐義弘
松本良治：名和広
ヴィナス化粧品社長：北村英三
木元健次：伊吹吾郎
影の男：藤沢徹夫、福本清三
アベックA：北川俊夫
アベックB：内村レナ

スタッフ

企画：今川行雄、奈村協
監督：牧口雄二
脚本：安西英夫（野波静雄）
撮影：塩見作治
音楽：渡辺岳夫
美術：園田一佳
編集：神田忠男
助監督：萩原将司

製作経緯

企画:
当時の東映社長・岡田茂が直接指示した企画で、映画タイトルも岡田による命名です。1974年末に『エマニエル夫人』が日本で公開され大ヒットしたことを受け、その便乗作品として企画されました。日本ヘラルドは上映館が少ない劇場が多く、満員で入場をお断りされる客が多数いると予想し、その状況から日本の興行界は便乗作品を企画しました。そこで、セックスに自由な女性タレントとして、1974年夏に『平凡パンチ』誌上で熟女ヌードを披露した五月みどりが選ばれました。このヌード披露により、五月は一躍オナペット女王となり、以降の活躍で女上位の象徴的なスターとなりました。しかし、当時『エマニエル夫人』のシルビア・クリステルは22、3歳であり、同作には若妻の性の目覚めがテーマとしてあったのに対し、五月みどりは当時36歳でした。岡田社長は五月の「熟れたお色気」に痺れ、本作を企画しました。当初は日活ロマンポルノが五月にオファーを出し『東京エマニエル夫人』の主役に迎えようとしましたが、五月はこれを断り、若い頃世話になった東映に義理立てして、東映製作のテレビドラマ『プレイガールQ』41話で「東京エマニエル夫人」を演じ、続いて映画の主演も決定しました。企画は『エマニエル夫人』の日本版でしたが、日活が既に『東京エマニエル夫人』を映画化しており、東映は別のタイトルへの変更を余儀なくされました。そこで、生物系のタイトルを好む岡田が『五月みどりのかまきり夫人の告白』と命名し、五月みどりの性遍歴を映像化する東映ポルノ実録作品として企画されました。五月は本作で、男を食い、男を殺す「かまきり夫人」＝「五月みどり」のイメージを決定的にし、1983年には同じ東映で『悪女かまきり』が製作されました。熟女エロスの女王となった五月は、テレビ、歌、ステージで熟れた肉体を露出し続けました。

脚本・監督:
当初は成沢昌茂が脚本を、井上昭が監督を担当する予定でしたが、脚本の初稿が過激だったため、五月からのクレームで変更されました。脚本を担当した安西英夫は、野波静雄のペンネームです。一般映画として客層を広げるため、脚本は三度も書き直され、さわやかポルノのような内容になりました。結果として、牧口雄二監督によって大成功を収めました。

製作発表:
1975年9月26日、銀座東映本社で製作発表記者会見が行われ、五月みどり、岡田茂東映社長、大野五月プロ社長らが出席しました。岡田社長は「当代お色気ナンバー・ワンの五月みどりさんに出演を快諾してもらった。彼女のお色気を100％生かしたい。『かまきり夫人』は五月みどりの男性悩殺第一弾だ」と述べ、五月主演で第三弾まで構想していました。五月は「ポルノのイメージが強すぎるのと、18、9歳（の体）ではないので出演を4ヶ月悩みました。週刊誌に45人と書かれたけどあれはウソよ…3人です。前貼りを付けるのは嫌いなので、撮影のときは生まれたままの姿でカメラの前に立ちます」などと発言しました。

キャスティング:
五月の淫女伝説は、本作の前年、1974年夏に『平凡パンチ』誌上でヌード写真を発表したことに始まります。当時35歳の二児の母であった五月のヌードは世間を驚かせ、熟れた肉体には、若くて青臭いヌード女優にはない、濃厚で芳醇なエロスがありました。ヌードの発表は、この年発売したシングル『わたし今夜もイライラよ』の宣伝目的でしたが、五月は「仕事となれば、なんでもないぞと思うようになった」と述べています。このヌード発表を受けて本作への出演オファーがありました。五月は1971年に西川幸男と離婚後、ドサ回りを続けていましたが、8歳年下のプロボウラー・坂部雅彦との恋で若返り、『平凡パンチ』にヌードを披露するという捨て身の作戦が成功し、再び一線に復帰しました。そんな五月にとって目障りだったのが窪園千枝子でした。窪園が当時「潮吹き」を盛んにマスメディアに売り込み、同じ東映の『好色元禄㊙物語』への出演が話題を呼んだことから、五月は、芸能界で長く活動している自負から、東映をじらせた挙句、ギャラ100万円と主演第二弾を1976年の東映正月映画でという条件で出演を承諾しました。当時の五月の人気ぶりでは、わざわざ映画で裸になる必要がない状況でした。2012年の沖縄国際映画祭では、熟女好きを公言するピース・綾部祐二、ロバート・秋山竜次らが参加して本作の上映会が開催され、五月みどりも登場しました。

夫役の山城新伍は、五月からの指名でした。当時の山城はバラエティ番組のMCで売り出し中の「ポルノの権威」という位置づけでした。

撮影:
1975年9月29日、東映京都撮影所でクランクイン。10月8日の撮影で五月は映画で初めてヌードになりました。五月は前貼りを嫌い、濡れ場の撮影も前貼り無しで行いました。東映京都のスタッフからは「あの年（35歳）であんなに裸が美しいとは思わなかった」と言わしめたほどでした。五月は濡れ場の撮影にも積極的で、牧口監督に意見を出し、牧口も「彼女、熱心です。まあ勉強させてもらうことが多いです」と話しています。10月8日には伊吹吾郎との濡れ場の撮影も行われ、伊吹は「さすがに上手いですね。すっかりリードされてしまいました」と五月を擁護しました。前貼り無しを実行した五月は、ポルノ時代の推進的役割を果たしたと評価されています。山城新伍はアドリブが多く、エロ物でよくある向かいの女性の股を足でいじるシーンも山城がアドリブで行ったそうです。また、2000年代以降、バラエティ番組の出演も多い伊吹吾郎がセリフが一言もない殺し屋を演じています。牧口監督は「彼はセリフがない方がいいね」と述べています。牧口監督は五月みどりについて、過去のインタビューで「現場は気楽でした。五月さんは自分の見せ方を知っていて、こちらも照明を間接光にして、いかにかわいく撮るかに集中して」「あの人は天真爛漫で良い女でしたね。自分の魅力を知っていて全部さらけ出すという..本当に綺麗でした」「あの女優さんには振り回されました。息の長い芸能人は、やっぱり厳しいですね。他人に対しては」と述べています。

宣伝:
五月はこの後もよく脱ぎましたが、本作撮影中か終了後かは不明ですが、1975年10月17日に帝国ホテルで日本テレビディレクターの面高昌義と婚約発表を行いました。東映はこれを逆手に取り、「数々の醜聞話題を投げかけた五月みどりが婚約発表と共に贈る…」「もうこれで見おさめか、みどり最後の陶酔ヌード」というキャッチコピーで宣伝を行いました。

逸話

本作は、五月みどりが実名で役を演じ、「五月みどりの性遍歴を再現ドラマにした」と宣伝したため、五月の当時の婚約者が怒り「変えろ」と変更を要求。このため物語全体が夢だったというオチに変更されています。また、東映系の東映洋画が『ディープ・スロート』を輸入した際に編集を請け負った向井寛が、日活ファッション・ポルノと称してシリーズ化していた『東京エマニエル夫人』の田口久美を招聘して『東京ディープスロート夫人』を製作し、『五月みどりのかまきり夫人の告白』の1ヶ月後に封切りました。さらに東映は、クリスチーナ・リンドバーグなどの外国のポルノ女優を日本に招いて映画を製作していた実績から、シルビア・クリステルを日本に呼び『エマニエル夫人 京都の休日』という『ローマの休日』の「エマニエル夫人版」を企画しましたが、『続エマニエル夫人』の公開を予定していたヘラルド映画が「営業妨害だ」と怒って頓挫しました。本作は駄作という評価が定着していますが、公開時は『新仁義なき戦い 組長の首』との併映で大ヒットしました。またすぐにソフト化され、現在もインターネット配信されています。

影響

本作の成功を受け、岡田茂東映社長は同じ五月主演で今東光原作『こつまなんきん』を企画していましたが、途中から主演が岡田お気に入りの由美かおるに変更になりました。岡田は1976年の製作方針で『こつまなんきん』をゴールデンウイーク映画として発表しましたが、製作はされませんでした。また、岡田は1976年1月の会見で「五月みどりもの『首斬り浅』を予定している」と述べており、東映で五月主演映画をシリーズ化する構想がありました。

外部リンク

五月みどりのかまきり夫人の告白 - allcinema
五月みどりのかまきり夫人の告白 - KINENOTE
五月みどりのかまきり夫人の告白 - 日本映画データベース
* 五月みどりのかまきり夫人の告白 - IMDb（英語）

もう一度検索