特別警備隊 (海上保安庁)

海上保安庁特別警備隊について

特別警備隊は、海上保安庁の警備実施強化巡視船（特警船）に設置されている部隊です。主な任務は、海上や港湾における警備活動であり、陸上における警察の機動隊に相当する役割を担っています。略称として「特警隊」とも呼ばれています。

歴史的背景

特別警備隊の設立には、1970年代の社会情勢が大きく影響しています。当時、日本では公害問題が深刻化し、企業の汚染物質排出に対する漁業者の抗議活動や、石油備蓄施設や発電所建設への反対運動が多発していました。海上保安庁は、これらの事態に対応するため、海上警備を強化する必要に迫られました。

また、安保闘争の時代でもあり、アメリカ海軍艦の寄港に対する反対運動も頻繁に発生していました。特に原子力艦の寄港には大きな反対運動が起こり、海上保安庁はこれらの警備にも対応する必要がありました。

これらの状況に対応するため、1981年7月に警備実施強化巡視船（特警船）の制度が発足し、その中核部隊として特別警備隊が編成されました。

編制

特警船は順次増強され、現在では全国の11管区で計12隻が指定されています。特別警備隊は、各船に15名ずつの小隊が2つ設置されており、特別警備隊長の指揮下で、規制班、採証班、広報班の3班に分かれて活動しています。

海上保安庁では、特別警備隊とは別に、被疑者の制圧を担当する要員として、各管区の巡視船に「制圧班」を設置しています。この組織も、特別警備隊とともにテロ対策訓練などを行っています。

組織

特別警備隊は、警備に関する専門知識と技能を持つ部隊として、特警船に配備されています。主な任務は、警察の機動隊と同様ですが、巡視船の乗員数が少ないため、平時は船舶の運航や海難救助などを行い、必要に応じて招集される体制となっています。

各隊は、規制班、採証班、広報班の3つの班に分かれています。

規制班: 暴徒化したデモ隊などを鎮圧する要員です。
採証班: 犯罪行為を行ったデモ隊などを検挙する際に必要となる証拠を収集する要員です。
広報班: デモ隊に対して、拡声器などを使用して通告や慰撫を行う要員です。

装備

特別警備隊は、雑踏警備や暴動鎮圧のために、機動隊と同様の出動服やヘルメットなどを着用しています。また、大盾操法や逮捕術などの訓練も行っています。

銃器対策としては、2000年以降、拳銃として装弾数の多いM5906が導入されました。その他の武装は、海上保安庁の標準的な装備品である64式7.62mm小銃や89式5.56mm小銃、特殊弾発射用やドア破砕用のレミントンM870 マリンマグナムなどが装備されています。

活動史

特別警備隊が対応した主な事件としては、以下のようなものがあります。

1983年3月21日、アメリカ海軍の原子力空母「エンタープライズ」が佐世保に入港した際、反対派による海上暴動が発生。巡視船「いず」の特別警備隊員が負傷し、活動家が乗船した漁船との衝突により、公務執行妨害で活動家らが逮捕されました。
1989年8月、東シナ海を航行中のパナマ船籍の鉱石運搬船内で船員が暴動を起こした際、「くにさき」の特別警備隊が投入され、暴動を鎮圧しました。
2004年、尖閣諸島に不法上陸した中国人活動家を、沖縄県警察と合同で逮捕しました。



特別警備隊は、海上における治安維持のため、日々訓練を重ねています。

参考文献

海人社 編「海上保安庁のすべて」『世界の艦船』第902号、海人社、2019年6月。
柿谷哲也; 菊池雅之『最新 日本の対テロ特殊部隊』三修社、2008年。
川口大輔「海上保安庁の現況と警備業務の歩み」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月。
佐藤雄二『波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル』文藝春秋、2019年。
ストライクアンドタクティカルマガジン 編『日本の特殊部隊』2017年3月。
立花敬忠「海上保安庁のすべて」『世界の艦船』第714号、海人社、2009年11月。
* 中名生正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月。

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