特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律

「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」（平成6年6月29日法律第78号）は、日本の科学技術振興を目的として、特定の先端的な大型研究施設を多くの研究者が利用できるようにするための基本的な枠組みを定めた法律です。この法律は、1994年度（平成6年度）に、大型放射光施設「SPring-8」を対象とした「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」としてまず成立し、その後の改正を経て現在の名称となり、対象施設が拡大されました。

法律の目的

この法律の最も重要な目的は、人文科学のみに係るものを除く科学技術に関する試験、研究、開発といった一連の活動（「研究等」）を行う人々や組織（「研究者等」）が、国の設置する先端大型研究施設を円滑に利用できる仕組みを構築することにあります。これにより、以下の三つの側面から日本の科学技術を振興することを目指しています。

1. 研究等基盤の強化: 高度で大規模な設備は、特定の研究機関だけでなく、広く多くの研究者が利用できるようにすることで、研究開発全体を支える土台を強固にします。
2. 多様な知識の融合: 施設を共用することで、様々な研究機関や異なる分野の研究者同士が交流する機会が生まれます。この交流を通じて、それぞれの持つ知識やアイデアが組み合わされ、新たな発見や革新的な研究成果に繋がることを期待しています。
3. 科学技術全体の発展への貢献: 上記の基盤強化と知識融合が促進される結果として、日本の科学技術水準の向上と発展に寄与することを目指します。

共用促進の仕組み：登録施設利用促進機関

法律に基づき、特定先端大型研究施設には「登録施設利用促進機関」を置くことができるとされています。これらの登録機関は、施設の設置者から委託を受け、施設の共用利用に関する中心的な役割を担います。その主な業務は以下の通りです。

施設の利用に関する情報の提供や広報活動。
施設を利用したいという研究者からの申請の受け付け。
提出された研究計画や利用申請内容の評価に基づいた利用者の選定。
利用が認められた研究者に対する、施設利用に関する技術的な支援やアドバイス。
施設利用によって得られた成果の適切な管理や公開支援。

このように、登録施設利用促進機関は、施設の維持管理を行う設置者と、実際に施設を利用して研究を行う研究者との間の橋渡し役として機能し、施設の効率的かつ効果的な共用利用を実現するための重要な役割を果たしています。

対象となる施設と登録施設利用促進機関

この法律の対象となる「特定先端大型研究施設」には、以下のような、それぞれの分野で世界的な水準を誇る大規模研究施設が含まれます。これらの施設には、それぞれ対応する登録施設利用促進機関が定められています。

特定放射光施設: 光速に近い電子から発生する特殊な光（放射光）を利用する施設。物質の構造や機能解析に用いられます。
SPring-8、SACLA（いずれも理化学研究所が設置）
ナノテラス（量子科学技術研究開発機構が設置）
これらの施設の登録施設利用促進機関は「公益財団法人高輝度光科学研究センター」です。
特定高速電子計算機施設: いわゆるスーパーコンピュータ施設。複雑な計算科学シミュレーションなどに不可欠な設備です。
「京」、「富岳」（いずれも理化学研究所が設置。ただし、「京」は運用終了）
これらの施設の登録施設利用促進機関は「一般財団法人高度情報科学技術研究機構」です。
これらの施設は、全国の主要な大学などに設置されたスーパーコンピュータ群とともに、「HPCIシステム」と呼ばれる高性能計算環境ネットワークの一部を構成しています。
特定中性子線施設: 原子炉などから発生する中性子線を利用する施設。物質の構造やダイナミクス解析に用いられます。
J-PARCの一部（日本原子力研究開発機構等が設置）
この施設の登録施設利用促進機関は「一般財団法人総合科学研究機構」です。

これらの施設がこの法律の枠組みのもとで共用されることで、国内外の様々な研究者が最先端の研究環境を利用できるようになり、科学技術の進歩に貢献しています。

法律の構成

この法律は、以下の章立てで構成されています。

第一章：総則（目的、定義など）
第二章：基本方針
第三章：特定先端大型研究施設の設置者の業務
第四章：登録施設利用促進機関（登録、業務、監督などに関する詳細）
第五章：罰則
附則

この法律は、大型研究施設の戦略的な共用を促進し、我が国の科学技術の発展を力強く推進するための重要な法的基盤となっています。

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