犬ジステンパー

犬ジステンパーとは

犬ジステンパー（英: Canine distemper）は、犬ジステンパーウイルス（CDV）が引き起こす感染症であり、主にイヌに影響を与えます。ウイルスはネコ目（食肉目）の他の動物種、例えばフェレットや野生のイヌ科動物などにも感染します。この病気は非常に深刻で、効果的なワクチン接種によって致死的な感染が減少しているとの報告があります。

歴史

犬ジステンパーの歴史は18世紀まで遡ります。当初、南アメリカからスペインに持ち込まれ、その後ヨーロッパ全土に拡大しました。以降、世界中で発生が確認されており、特に日本でも問題になっています。初期にはこの病気が細菌性疾患と考えられていましたが、19世紀半ばには犬同士の感染実験が行われ、ウイルス性疾患であることが明らかになりました。20世紀に入ってから、さらなる研究が進展し、疾患の理解が深まっていきました。

この病気はニホンオオカミの絶滅の要因の一つでもあり、現在では犬にとって重要な疾患であると同時に、以前は感染が知られていなかった野生動物にも影響を及ぼしています。1994年にはタンザニアのセレンゲティ国立公園でライオンに感染が拡大し、現地のライオンの85%がCDV抗体を持つことが確認されました。アメリカでは、イノシシからCDVの抗体が見つかるなど、感染が広がっていることが報告されています。

原因ウイルス

犬ジステンパーの原因となるCDVは、パラミクソウイルス科に属します。このウイルスは麻疹ウイルスから進化した亜型であり、全世界に広く分布しています。

このウイルスは犬をはじめとして、フェレットや他の食肉目の動物にも感染しますが、人間には感染しません。猫ジステンパーは別の病気であり、CDVとは異なるパルボウイルスによって引き起こされる疾患です。また、近年では霊長類にも自然感染が確認されており、2008年には輸入されたカニクイザルの中で集団感染が発生し、多数の死亡が報告されました。

感染経路と症状

CDVの主な感染経路は、感染した犬の鼻汁や唾液によって広がる飛沫感染です。特に免疫機能が弱い子犬や高齢の犬は感染しやすいとされています。ウイルスが体内に入ると、最初にリンパ系に感染し、さらに全身に拡散します。感染から3-5日後に急な発熱が見られ、続いて結膜炎や激しい咳、下痢などの症状が現れます。特に二次感染が起こりやすく、病気が進行すると神経症状が出現することも少なくありません。致死率は非常に高く、90%に達することもあります。

診断と予防

犬ジステンパーの診断は、典型的な二峰性発熱や呼吸器、消化器、神経症状から推察されます。確定診断には鼻腔や結膜からウイルス抗原を検出する検査が行われます。特異的な治療法は存在せず、主に二次感染を防ぐための抗生物質投与や水分補給が行われます。最も効果的な予防策は、弱毒生ワクチンの接種ですが、他の動物種への接種は危険を伴います。

犬ジステンパーは深刻な疾患であり、早期の診断と適切な予防が健康を守るために重要です。

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