犬上慶五郎

犬上 慶五郎（いぬがみ けいごろう）は、幕末の元治2年3月21日（1865年4月16日）に生まれ、昭和19年（1944年）6月5日に没した、明治から昭和初期にかけて活動した著名な実業家であり政治家です。蝦夷地の松前（現在の北海道松前町）で、犬上群太夫の五男としてこの世に生を受けました。

幼少期に漢学を学んだ犬上慶五郎は、若くして故郷を離れ函館へ移り住みました。その後、成長とともに小樽を新たな拠点とし、明治19年（1886年）以降、本格的に海運業の世界に身を投じます。

彼の事業家としての飛躍は、明治41年（1908年）に北海道炭礦汽船会社から汽船「札幌丸」を購入し、船舶事業を開始したことから始まりました。事業は順調に拡大し、所有する船舶は最終的に7隻にまで増加します。特に第一次世界大戦による好況期には、その成功が顕著となり、犬上慶五郎は北海道内で最も多額の納税を行う資産家の一人として知られるようになりました。

彼は海運業を中心に、多岐にわたる企業の経営にも関与しました。日本海運、北海道礦業鉄道、寿都鉄道、向島船渠、東洋海事工業、大正水産といった企業の取締役を務めたほか、自身が設立した犬上（資）の社長としても采配を振るいました。

実業家としての成功を背景に、犬上慶五郎は政界にも進出します。大正9年（1920年）、相馬哲平の貴族院多額納税者議員辞職に伴う補欠選挙で当選を果たし、同年6月28日に貴族院議員に就任しました。貴族院では交友倶楽部に籍を置き、大正14年（1925年）9月28日まで約5年間にわたりその職を務めました。

政治家としての活動の最中に、犬上慶五郎は大きな試練に直面します。昭和2年（1927年）11月から北海道鉄道社長として取り組んでいた、札幌市郊外の新線買収に関連する政界への働きかけが問題視され、収賄容疑で逮捕されるという事態に見舞われたのです。この一件は、当時の政財界を揺るがした五私鉄疑獄事件として知られています。

起訴された犬上慶五郎は、長期にわたる裁判に臨むことになります。昭和8年（1933年）5月16日に行われた東京地方裁判所での第一審判決では無罪となりましたが、検察側はこれを不服として控訴しました。しかし、昭和9年（1934年）11月17日の東京控訴院での控訴審においても、再び無罪の判決が下されます。検察側はさらに上告しましたが、昭和11年（1936年）9月、大審院で行われた上告審で、最終的に彼の無罪が確定しました。

実業家として莫大な財を築き、貴族院議員として国政にも携わった犬上慶五郎は、晩年に疑獄事件という困難を乗り越え、昭和19年（1944年）にその波乱に満ちた生涯を閉じました。

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