狩野一信

狩野一信：五百羅漢図に魂を込めた幕末の絵師

狩野一信（かのう かずのぶ、1816年 - 1863年）は、江戸時代後期に活躍した絵師です。その名は、増上寺に奉納された全100幅にも及ぶ大作「五百羅漢図」とともに、今もなお美術史に深く刻まれています。

生涯と画業

一信は、江戸の本所林町（現在の東京都墨田区）で骨董商の次男として生まれました。幼い頃から絵に親しみ、堤派の絵師に師事したと伝えられています。人物描写に力強い輪郭線や独特な表情がみられるのは、この頃の修練によるものでしょう。また、四条派や土佐派など、様々な流派も学んだことで、独自の画風を確立していきました。

転機となったのは、25歳頃に出会った逸見舎人との出会いです。舎人は一信の才能を見抜き、娘のやすと結婚させました。婿入りした一信は「逸見」姓を名乗ります。その後、生活は決して楽ではなかったようですが、妻やすの支えもあり、絵師として腕を磨き続けました。浅草に住んでいた頃には、近くに住む柴田是真とも交流があったそうです。

五百羅漢図への挑戦

一信の名を不朽のものとしたのは、増上寺に奉納された「五百羅漢図」です。この大作は、源興院の了瑩上人の発願により制作が始まりました。一信は、了瑩上人やその後を継いだ亮迪上人の後援を受け、その制作に専念します。鎌倉の寺院などを巡り羅漢図を研究し、養鸕徹定や日野霊瑞、大雲といった学者から指導を受け、中国の羅漢図を批判的に捉え、インドの古儀に則った羅漢像を目指しました。

しかし、長年にわたる大作の制作は、一信の心身を蝕みます。完成間近にして病に倒れ、48歳という若さでこの世を去りました。

妻、妙安の献身

一信の死後、「五百羅漢図」は、妻の妙安と弟子の逸見一純によって完成されました。妙安は、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れる時代にも「五百羅漢図」を守り抜き、羅漢堂を建立するなど、その保存と顕彰に尽力しました。彼女の献身がなければ、「五百羅漢図」は आज अब तक 伝わることはなかったかもしれません。

死後の評価

近年、狩野一信は再評価の機運が高まっています。作品調査や展覧会開催などを通して、「五百羅漢図」は多くの人々の目に触れる機会が増えました。アメリカの美術館でも展示され、図録が完売するなど、海外からの注目も集めています。増上寺には宝物展示室が設けられ、「五百羅漢図」の一部が常時公開されています。

姓名について

一信は狩野直信から「狩野」姓を名乗ることを許されたとされますが、現存する作品に「狩野」の署名はありません。そのため、「逸見一信」または「顕幽斎一信」と呼ぶのが適切とする意見もあります。

明治時代になって「狩野一信」の名が広まりましたが、これは妻・妙安の意向が強く反映されたものと考えられています。

作品

法橋叙任以前: (詳細な作品リストは省略)
法橋叙任以後: (詳細な作品リストは省略)

狩野一信は、幕末という激動の時代に、独自の画風と深い精神性をもって「五百羅漢図」を描き上げました。彼の作品は、今もなお私たちに感動と畏敬の念を与え続けています。

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