狼と狐狩り

『狼と狐狩り』：ルーベンスによる狩猟画の革新

ピーテル・パウル・ルーベンスが1616年頃に制作した『狼と狐狩り』は、バロック期フランドルの巨匠による油彩画で、彼の初期の代表作として知られています。この作品は、大規模な狩猟シーンをダイナミックに捉え、当時の絵画市場に新しい風を吹き込みました。

制作の背景

当時、狩猟の場面は王侯貴族に人気の高いテーマでしたが、主に高価なタペストリーに描かれていました。ルーベンスは、ルネサンス期のタペストリー原寸大下絵であるカルトンに精通しており、このテーマをより手頃な絵画として制作することで、新たな市場を開拓しました。タペストリーの制作には時間と費用がかかるため、ルーベンスのこの試みは大きな転換点となりました。実際、彼は翌年にはバイエルン選帝侯マクシミリアン1世のために4点の大キャンバス画を制作しています。

作品の詳細

この作品には、槍や剣、棍棒を手にした狩猟者たちが、騎乗または徒歩で2頭のオオカミと3頭のキツネを追い詰める様子が描かれています。狩猟者たちはラッパを吹き鳴らし、オオカミのうち1頭は牙を剥き出しにして反撃し、もう1頭は猟犬に噛みつかれて身をよじっています。キツネもまた威嚇したり、傷ついて倒れたりしています。画面右上にはハヤブサが飛んでおり、狩りのダイナミックさを強調しています。

古い説によれば、この絵に描かれた3人の騎馬像は、ルーベンス自身とその妻イザベラ・ブラント、息子アルベルトの肖像であると言われています。この大画面の作品は、ルーベンスが工房の画家たちと協力して制作しましたが、ルーベンス自身はオオカミとキツネの描写に特に関わったとされています。美術史家ジョン・スミスによると、風景はヤン・ウィルデンス、動物はフランス・スナイデルスが関与した可能性も指摘されています。

構図においては、フランドルのタペストリーや、ルーベンスが模写したレオナルド・ダ・ヴィンチの『アンギアーリの戦い』など、様々な図像が組み合わされています。画面左の馬と騎手は、ジェノヴァのスピノーラ宮殿所蔵の『ジャンカルロ・ドリア騎馬像』を参考にしているとされています。

絵画は当初より大きなサイズでしたが、上部と左側が切り落とされ、現在の形になりました。これは、当時の有力な顧客にとって大きすぎたため、ルーベンスの工房で切断されたと考えられています。

作品の来歴

この作品は1616年12月30日に、トビー・マシューがダドリー・カールトンに宛てた手紙の中で言及されています。その手紙によると、当時ハーグに駐在していたルーベンスは、この狩猟画の縮小版を制作しており、オリジナルの作品は大きすぎて飾る邸宅が限られていたためとされています。その後、この作品は1617年4月24日に100ポンドで落札され、アールスコート公爵フィリップ＝シャルル・ダランベールが購入したとされています。

その後、この絵画は初代レガネス侯爵ディエゴ・フェリペ・デ・グスマン、アルタミラ伯爵家、ジョゼフ・ボナパルトなどを経て、1820年にパリの美術商ジョン・スミスに売却されました。ジョン・スミスは1824年に初代アシュバートン男爵アレクサンダー・ベアリングに売却し、その後、その息子である第2代アシュバートン男爵ウィリアム・ビンガム・ベアリング、そしてその未亡人ルイーザ・ベアリングに相続されました。1908年に美術商サリー＆カンパニーに売却された後、1910年にメトロポリタン美術館が購入し、現在に至ります。

複製と影響

ウィルトシャー州のコーシャム・コートに所蔵されているバージョンは、1615年以降に制作された工房による複製で、トビー・マシューの手紙に言及されている縮小版であると考えられています。

この作品は早くから注目を集め、オランダの画家ピーテル・サウトマンやフランドルの版画家ウィレム・バン・デル・レーウによって複製版画が制作されました。また、アンソニー・ヴァン・ダイクもこの作品を模写し、動物画家としての道を開きました。19世紀には、イギリスの画家エドウィン・ランドシーアがこの作品を模写しました。ランドシーアは幼少期から動物画に興味を持ち、後に「イギリスのフランス・スナイデルス」として知られるようになりました。ランドシーアの模写は、現在メトロポリタン美術館に所蔵されています。

『狼と狐狩り』は、ルーベンスの卓越した画力と、新たな市場を開拓する革新的な姿勢を示す作品であり、その後の美術界に大きな影響を与えました。

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