猟奇歌

猟奇歌（れふきうた・りょうきうた）

『猟奇歌』は、昭和初期に著名な探偵小説作家の夢野久作が詠んだ短歌のシリーズで、特に猟奇的なテーマを扱った作品です。この独特な短歌の形態は、1927年から1935年の間に、主に『猟奇』『探偵趣味』『ぷろふいる』という雑誌に251首が発表されました。また、彼の没後に刊行された『夢野久作の日記』に残された作品を加えると、全体で400首以上の短歌が存在します。

猟奇歌の発展と特徴

「猟奇歌」は元々、雑誌『猟奇』の編集者によって始まった短歌のジャンルで、本来は猟奇的なテーマさえ詠めばどの作者でも参加できるものでした。しかし、他の作者による猟奇歌はあまりにも完成度が低く、結果的に夢野久作の作品がこのジャンルのすべての評価を受けることとなりました。彼の猟奇歌は、後の小説『ドグラ・マグラ』につながる彼独自の精神世界の反映として今に語り継がれています。

夢野久作は三行の分かち書きで口語短歌を作成し、その形式には石川啄木からの影響も見て取れます。彼の日記には1911年（明治44年）にはすでに短歌が記されており、さらに大正時代には竹柏会の福岡県支部の如き役割を果たす浅香会（後に赤泥会）にも参加しました。1930年代に入ると、探偵小説家として作品を発表していた夢野は、『探偵趣味』の編集者水谷準の注目を受け、彼の短歌が同誌に掲載されることになり、そこでの活動が猟奇歌の出発点となったのです。

作品例

夢野久作の猟奇歌には、次のような作品があります。

例:

• - ある夫人をくびり殺して、捕まえてみたいと思う応接室。
• - よく切れる剃刀を手にとり、鏡を見ながら狂人のように微笑む。
• - 頭の中で「パキン」と音が鳴り響き、自分の笑い声が聞こえる。
• - ニセのパスで電車に乗り、まるで超人のように感じる。
• - 誰か一人を殺してみたいと考える。君なのか、友よ。
• - 屍体の血の色を笑いながら紅茶に混ぜてみせる。

これらの作品は、怪しげで陰鬱な雰囲気を纏いながら、夢野久作の非凡な創造性を物語っています。

他の猟奇歌

加えて、夢野久作以外に投稿された猟奇歌も存在し、彼の詩と共演していることが確認されています。例えば、偽ゼニをつかまされた金融業者や、病院の窓に置かれた花のエピソードなど、さまざまな視点から猟奇的テーマを追求した短歌が展開されています。

参考文献

この短歌の研究には、筑摩書房の『夢野久作全集3』（1992年）や、秋元進也の著作『夢野久作「猟奇歌」の成立過程』（2010年）などがあります。また、青空文庫では『猟奇歌』を新字旧仮名で読むこともできます。

このように『猟奇歌』は、夢野久作にとっての個人的な表現力が凝縮された作品であり、今なお評価され続けています。

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