猪俣良記

猪俣 良記（いのまた よしき）氏は、1920年（大正9年）10月27日にこの世に生を受けた、昭和期を代表する政治家の一人です。彼の出身地は、歴史と文化の薫り高い福島県会津若松市でした。

学問への志も高く、1943年（昭和18年）には日本大学商経学部にて専門的な知識を修得し、その後の社会活動の基盤を築きました。大学卒業後、故郷である会津の地へと戻り、地域社会に貢献することを生涯の目標と定めます。

政治家としての第一歩は、会津若松市の周辺に位置していた門田村の村議会議員として踏み出されました。ここで基礎的な地方政治の実際を学び、住民の声に直接耳を傾ける経験を積みました。その後、活動の場をより広域な会津若松市に移し、市議会議員として市政の課題解決に携わります。村議、市議という草の根レベルでの活動を通じて、地域が抱える様々な問題や人々の生活の現実を深く理解していきました。

地方議会での地道な実績と、地域住民からの厚い信頼を背景に、1967年（昭和42年）からは福島県の県政へと舞台を移します。福島県議会議員選挙に挑戦し、見事に初当選を果たしました。県議会議員としては、実に5期にわたってその職責を全うするという、極めて長い期間にわたり県政に深く関与しました。1967年から1983年までの約20年間にわたる県議としての活動期間中、彼は故郷会津地方の発展はもちろん、福島県全体の課題解決に向けて情熱を燃やしました。県民生活の向上、地域経済の活性化、そして社会基盤の整備など、多岐にわたる分野で積極的に政策提案や議会活動に取り組み、その手腕は広く認められました。

長年の県議としての豊富な経験と実績、そして地元会津における強固な地盤を礎に、さらなる重責を担うことを決断します。1983年（昭和58年）、故郷である会津若松市の舵取り役となるべく、市長選挙に立候補しました。市民からの信任を得て見事に当選を果たし、第20代会津若松市長に就任しました。郷土のリーダーとして市政を率いることになった猪俣氏は、これまでの政治経験から得た知識と知恵を最大限に活かし、会津若松市のさらなる発展と市民福祉の向上を目指して、精力的に市政運営にあたりました。しかしながら、市長としてのキャリアは一期四年をもって区切りを迎えることとなります。1987年（昭和62年）に実施された次の市長選挙では、残念ながら再選を果たすことができず、この職を退くこととなりました。

市長退任後も、長年にわたり地方政治、特に故郷会津のために尽力したその功績は高く評価され続けました。1992年（平成4年）には、これまでの公職における顕著な功労に対して、勲三等瑞宝章が授与され、国家からの栄誉に浴しました。

猪俣良記氏は、2007年（平成19年）5月22日に86歳でその波乱に満ちた、そして地域社会に捧げられた生涯を閉じました。逝去に際して、長年の公職への貢献と功労が改めて認められ、正五位が追贈されました。

門田村議会議員として地域政治の基礎を学び、会津若松市議、そして福島県議会議員として県政に深く関与し、最終的には故郷の市長を務めた猪俣氏の歩みは、まさに地方政治の道を一歩一歩着実に進んだ軌跡と言えるでしょう。彼がその生涯をかけて尽力した会津若松市や福島県政における功績は、今なお多くの人々の記憶に留められています。

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