猪牟田カルデラ

猪牟田カルデラ：巨大噴火の痕跡と地質学的意義

大分県西部、九重連山北部に位置する猪牟田カルデラは、直径約8kmに及ぶ巨大な火山カルデラです。約100万年前から90万年前にかけて活発な火山活動を展開し、その歴史は、耶馬溪火砕流や今市火砕流といった大規模な噴火によって刻まれています。これらの噴火は、広大な地域に甚大な影響を与え、現在でも地層にその痕跡を残しています。

耶馬溪火砕流とピンク火山灰

約100万年前に発生した耶馬溪火砕流は、推定約110立方キロメートルものマグマを噴出しました。この大規模な火砕流は、耶馬溪溶結凝灰岩と呼ばれる固い地層を形成し、九州中部に広く分布する火砕流台地を造り上げました。その後の浸食によって形成されたのが、名勝として知られる耶馬溪です。耶馬溪火砕流噴出時には、ピンク火山灰が大量に放出され、関東地方や新潟地方まで広域に分布しています。このピンク火山灰層は、大阪層群に含まれ、重要な鍵層として地質学的研究に活用されています。

今市火砕流とアズキ火山灰

約90万年前に発生した今市火砕流は、推定約90立方キロメートルのマグマを噴出しました。大分県大分市今市地区で最初にその存在が確認されたことからこの名が付けられました。この火砕流は、九州中部から東部に分布し、主に溶結凝灰岩から構成されています。今市火砕流噴出時には、アズキ火山灰が放出され、関東地方にも堆積層が確認されています。アズキ火山灰は、大阪層群に含まれ、その特徴的な色（アズキアイスに似ていることから名付けられました）から、鍵層として広く認識されています。厚さは場所によって異なりますが、40cmを超える場合もあります。上総層群国本層のKu6C火山灰と対比されるなど、年代測定の基準としても重要な役割を果たしています。

猪牟田カルデラの位置と周辺環境

猪牟田カルデラは、現在の大分県玖珠郡九重町周辺に位置していたと考えられています。野稲岳、花牟礼山、涌蓋山、万年山などの山々に囲まれた玖珠川流域に広がり、その規模の大きさを物語っています。この地域の地名が、カルデラの名称の由来となっています。

敷戸テフラと今後の研究

約130万年前に形成された広域テフラである敷戸テフラは、その噴出源がまだ特定されていませんが、大分県内が有力な候補地として考えられています。今後の研究によって、猪牟田カルデラを含めた九州地方の火山活動の歴史が、さらに詳細に解明されていくことが期待されます。

まとめ

猪牟田カルデラは、その巨大な規模と大規模な噴火による広域テフラの分布から、日本の地質学研究において重要な位置を占めています。耶馬溪火砕流、今市火砕流、ピンク火山灰、アズキ火山灰といったキーワードは、日本の地層を理解する上で欠かせない要素であり、これらの研究を通して、過去の火山活動や環境変遷を解き明かし、将来の防災対策にも役立てることが期待されます。今後の研究により、猪牟田カルデラの活動の詳細や、周辺地域への影響などがさらに明らかになることで、より深い理解へと繋がっていくでしょう。

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