猫の事務所

「猫の事務所」に関する解説

「猫の事務所」は、1936年に発表された宮沢賢治の童話の一つで、彼の数少ない生前発表の作品です。この物語は、軽便鉄道の停車場近くに設立された猫のための事務所を舞台にしています。事務所には、無邪気な猫たちがさまざまな役割を持って働いており、中心となる存在が大型の黒猫の事務長です。彼の指揮のもと、白猫、虎猫、三毛猫、そして特にかまどで寝るために煤汚れたかま猫の四人の書記が、共同で猫の歴史や地理に関するアドバイスを提供します。

物語の根底には、かま猫が他の書記たちにいじめられながらも、自身の仕事に対する誠実な姿勢が描かれています。彼は、周囲の支えを受けて任務に尽力していますが、ある日風邪を引いて事務所を休むことになります。この突然の事態が引き金となって、残された書記たちがかま猫に対して讒言を述べる中で、事務長の黒猫にさえ誤解が生じ、かま猫に対する不当な扱いが広まっていきます。最終的に、かま猫は自身の職を奪われてしまい、事務所の秩序が崩壊する事態へと発展します。

物語のクライマックスでは、獅子が事務所の解散を命じるという決定が下されます。物語の語り手である「ぼく」は、この状況に対して半分同感であるという気持ちを表明し、暗い結末と共に物語は幕を閉じます。この結びつけには、賢治が描く哲学的な視点が垣間見えます。

草稿と最終稿の違い

作品には、初期段階の草稿が存在し、それを基にして執筆が進められました。草稿の内容は最終版とは大きく異なり、獅子の解散命令後に全ての登場人物を哀れむ言葉が繰り返され、その後に「みんなみんなあはれです。かあいさうです。」というフレーズで締めくくられる形式となっていました。

派生作品

「猫の事務所」は、その後さまざまな媒体で再解釈されてきました。漫画化はますむらひろしによって行われ、教育向けに脚色された戯曲も存在します。この劇版は中学生向けに調整されており、教育現場での演劇教材として使用されています。また、1996年に制作されたアニメ映画「賢治のトランク」の一編としても取り上げられています。リーディングのキャストには、大谷育江や石田彰といった有名な声優陣が名を連ねています。

事務所のモデル

「猫の事務所」のモデルとなったのは、旧稗貫郡役所です。賢治はそこでの地質調査の依頼を受けており、それに伴い大迫町に頻繁に訪れていました。2007年には、花巻市により役場跡地が復元され、資料館として公開されています。これにより、賢治の作品とその背景をより深く理解するための重要な場所となっています。

「猫の事務所」は、賢治の豊かな想像力と社会の中での孤立や嫉妬のテーマを描いた作品であり、読者に深い感慨を与える物語です。

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