猫後天性免疫不全症候群

猫後天性免疫不全症候群（猫エイズ）とは

猫後天性免疫不全症候群（ねここうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん）とは、ネコ免疫不全ウイルス（FIV）の感染によって引き起こされる、猫特有の病気です。一般的に「猫エイズ」とも呼ばれています。FIVは、ライオンやピューマなどのネコ科動物にも感染するFIV関連ウイルスと遺伝的に近い関係にありますが、これらの動物がFIV関連ウイルスによって発症したという明確な報告はありません。猫免疫不全ウイルス感染症は、様々な病態を示すことが知られています。

感染経路と潜伏期間

主な感染経路は、猫同士のケンカによる咬み傷からの接触感染です。体液を介してウイルスが感染します。交尾による感染は、自然界では確認されていません。母子感染の事例も報告されています。

FIVは、ヒト免疫不全ウイルス（HIV）と同じレトロウイルス科レンチウイルス属に分類されますが、猫に特異的なウイルスであり、犬や人に感染することはありません。

国内におけるFIV抗体陽性率は約12%とされていますが、野良猫においては、より高い保有率であると考えられています。

発症のメカニズム

興味深いことに、FIVに感染した猫すべてが発症するわけではありません。FIV感染によって免疫機能が抑制されるものの、HIVほどではありません。また、免疫が抑制されたとしても、FIV感染が直接病気を引き起こすのではなく、免疫抑制に伴う他の病原体の感染によって発症します。

FIVが感染するために必要な受容体は、CD134という分子です。CD134は、抗原刺激によって活性化されるCD4陽性T細胞の副刺激分子の一つです。つまり、様々な病原体や、病原性を持たないウイルスや細菌などによる抗原刺激によって、FIVが増殖可能なCD4陽性T細胞が増加し、それに伴い体内のFIVの量も増加すると考えられます。逆に、清潔な環境で抗原刺激が少ない状態では、猫の体内のウイルス量は低いまま維持されると考えられています。

エイズのステージ

猫エイズは、以下の5つのステージを経て進行します。

1. 急性期（1か月～1年）：
- 感染から4～8週間後に、軽い発熱やリンパ節の腫れが見られます。
- この時期に発見できれば、抗生物質などで治療できる場合があります。
2. 無症状キャリア期（2年～4年、またはそれ以上）：
- 外見上は健康な状態が続きます。
3. PGL（持続性全身性リンパ節症）期（1か月～2か月）：
- 全身のリンパ節が腫れますが、外見からは判別が難しい場合があります。
4. エイズ関連症候群期（1年、またはそれ以上）：
- リンパ節の腫れに加え、慢性の口内炎、鼻風邪のような症状、皮膚病、下痢、発熱、軽度の体重減少などが見られるようになります。
- この段階で重篤な症状を示す病気を発症した場合、「エイズ」と診断されます。
5. エイズ期（数か月）：
- 激しい体重減少、貧血、白血球減少症、免疫不全による悪性腫瘍（がん）や日和見感染症などが起こります。

家庭での対策

家庭では、子猫のうちにウイルス検査を行うことが重要です。潜伏期間があるため、最後に他の猫と接触してから数か月経ってから検査するのが確実です。

陰性と判明した場合は、不妊・去勢手術を行い、他の猫との交尾やケンカの機会を減らすことで、ほぼ確実に予防できます。

FIVは白血球のT細胞に潜伏するため、採血による簡易検査キットで簡単に検査が可能です。このキットは、ウイルスに対する抗体を検出します。抗体が陽性になるまで約1か月かかるため、感染していても陰性と判定されることがあります。感染の可能性が高い場合は、1か月後以降（できれば2か月後以降）に再検査が必要です。

参考文献

石田卓夫『猫のエイズ：FIV感染をめぐって』集英社〈集英社新書〉、2001年。ISBN 4087200779。

関連項目

ツシマヤマ[[ネコ]]

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