玄冶店

玄冶店（げんやだな）

玄冶店とは、江戸時代の日本橋界隈に存在した地名、または通りの俗称です。現在の東京都中央区日本橋人形町3丁目付近、かつての新和泉町一帯を指します。

玄冶店の由来

玄冶店の名は、徳川家の御典医であった岡本玄冶に由来します。玄冶は、三代将軍・徳川家光が痘瘡を患った際にこれを全快させた功績により、幕府から広大な屋敷地を拝領しました。玄冶は、この拝領地に借家を建てて庶民に貸し出したため、その一帯が「玄冶店」と呼ばれるようになったと伝えられています。

現在も当地には、将軍家から玄冶に下賜されたと伝わる「橘稲荷神社」が残されており、その歴史を今に伝えています。

文化との関わり

玄冶店は、様々な文化作品の舞台としても知られています。

歌舞伎『与話情浮名横櫛』（通称『切られ与三郎』）:
与三郎とお富の物語で有名なこの歌舞伎の四幕目には、玄冶店が実名を避けて「源氏店（げんじだな）」として登場します。当時、江戸時代の出来事をそのまま脚色上演することが禁じられていたため、舞台を鎌倉時代に仮託し、「げんや」を「げんじ」と読み替え、文字も変えて表現されました。
歌謡曲『お富さん』:
1954年に発表されたこの歌謡曲は、『与話情浮名横櫛』の台詞を歌詞に取り入れ、「源冶店（げんやだな）」という地名が登場します。
宇江佐真理の時代小説『玄冶店の女』:
この小説は、玄冶店を舞台に、そこに生きる人々の人間模様を描いています。

落語家の四代目橘家圓喬も玄冶店に居住し、「玄冶店の師匠」と呼ばれていました。また、現在も営業を続ける料亭「玄冶店 濱田家|玄冶店_濱田家」など、その名を冠した店も存在します。

玄冶店の現在

玄冶店という地名が現在使われることは少なくなりましたが、その名は様々な文化作品を通して人々に記憶されています。かつて庶民の生活が息づき、多くの文化人に愛された玄冶店の歴史は、今も日本橋人形町の片隅に静かに息づいています。

参照

笹川種朗『江戸文学叢書』評釈第三下（1936年〔昭和11年〕月不明　講談社)

外部リンク

* 玄冶店跡 - 中央区観光協会

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