与話情浮名横櫛

与話情浮名横櫛

『与話情浮名横櫛』（よわなさけうきなのよこぐし）は、歌舞伎の名作であり、1853年5月に江戸中村座で初演された演目として広く知られています。作者は三代目瀬川如皐で、九幕十八場からなる本作は世話物の傑作とされ、多くの通称で親しまれています。特に「切られ与三」や「お富与三郎」といったタイトルで知られています。

あらすじ

物語は、江戸の大店伊豆屋の若旦那、与三郎の悲劇から始まります。与三郎は家の事情で無頼漢へと転落し、身を寄せる親類のもとで過ごしていました。ある春の日、木更津の浜辺でお富と出会った彼は、互いに一目で恋に落ちます。しかし、お富は地元の親分・赤間源左衛門の妾という身分であり、二人の恋愛は運命に翻弄されていきます。

恋の行方は悲劇的で、与三郎は源左衛門に見つかり、命を奪われそうになりますが、何とか生き延びます。その後、与三郎は無頼漢としての生活を送る中で、壮絶な刀傷を負い、悪名を轟かせる存在となります。一方お富は、彼女を助けた男・多左衛門と関係を持つことになります。

物語は時間が経過し三年後、再び二人が出会う場面へと進みます。与三郎は蝙蝠安という仲間に誘われて訪れた女の家で、再びお富と会うことに。しかし、彼女が以前と同じように他者に囲い込まれているのを見て、与三郎は苦悩します。この瞬間の気持ちが、彼の内面的な葛藤を描き出しています。

その後、与三郎はお富の実の兄である多左衛門の存在を知ることなく、運命の渦の中に巻き込まれていきます。与三郎の復讐の誓い、そしてお富との愛の軌跡は複雑に絡み合い、次第に緊張感を高めていきます。

物語は、運命的な再会とともに進展し、与三郎は源左衛門と再び対峙することになります。命の危険を伴う戦いの中で、与三郎の意志と愛は試され、彼の生き様が描かれます。

解説

本作は、長唄の四代目芳村伊三郎の若き日の体験を元にした実話であり、舞台化の経緯も深いものがあります。初演当初はあまり評判が良くなかったが、観客の反応によって大幅な改良が加えられ、歌舞伎としての成功を収めました。特に八代目市川團十郎による与三郎役は大きな支持を得て、次第に歌舞伎の代表的な演目へと成長していきました。

この物語は、感情の葛藤や人間模様、そして運命のいたずらが織りなすドラマとして、多くの観客に愛され続けています。そして、戦後の時代には様々な形で再演され、作品としての価値が再確認されています。

主な配役

初演時の配役として、与三郎を八代目市川團十郎が、お富を四代目尾上梅幸が演じました。印象的なセリフや舞台の演出が、観客に深い感動をもたらしています。近年も多くの美形の役者による上演が行われ、それぞれが与三郎とお富の物語に新たな息吹を吹き込み続けています。

作品の影響

『与話情浮名横櫛』はただの演目に留まらず、様々な派生作品を生む源ともなりました。映画や楽曲、漫画など、異なるジャンルでもその物語が伝承され、日本文化において重要な位置を占めています。

歌舞伎の持つ魅力と、人間の葛藤、愛の力が融合した本作は、これからも多くの人々に語り継がれていくことでしょう。

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